第10章 涙の向こうに見た青藍の瞳[冨岡義勇]
あれから私は少しずつ任務に戻っていった。
水柱とはあれっきり会うことがなかった。けれど、私の瞼にはあの日涙を拭ってくれた指先の感覚と、光の中に浮かぶ綺麗な色の瞳がはっきりと残っている。
また逢いたい──
そんなことばかりを思う日々を過ごしている私は、またやらかした。
辺りはすっかり冬の装いを纏い、身を切るような冷たい風が吹く夜。
同期の隊士との合同任務に出ていた。
相手は下弦の鬼。柱ほどの力を持たぬ私たちは、命を削るようにして頸を斬った。どちらも重傷を負った。
私は夜明けが近づく空を見た瞬間、胸をざっくりと切られ倒れ込んだ。
同期がさらしを巻いてくれたものの、情けなさが胸を刺した。
そして今回は蝶屋敷で療養することになった。「まさかこの怪我で帰るなんて言いませんよね?」としのぶ様に額に青筋を立てながら言われてしまい、返す言葉もなかった。
家は大丈夫だろうか。雪が降れば雪かきをしないといけないし、風が強く吹く日は雨戸を閉めなければいけない。
今にも雪が降り出しそうな灰色の空を眺めていると、戸を叩く音がした。
「はい!」
「入るぞ」
その声に体が跳ねた。胸の傷が痛むことも忘れて、夢中で戸を開けにベッドから降りた。
けれどその瞬間激痛が走り床に倒れこんでしまった。
「大丈夫か」
「はい……すみません」
私はなんて間抜けなのだろうか。
「それは何の謝罪だ」
「えっと……間抜けすぎて申し訳ないな……と」
「そんなことはいい。以前からわかっている」
水柱は私を抱えてベッドに戻してくれた。
丁寧に布団までかけてくれて、ベッドの傍らに椅子を持ってきた。
静かに座ったままただじっと窓の外を眺めている。以前は気にならなかった沈黙が、今日はやけに胸をざわつかせる。その原因は、美しすぎるほど静かに佇むその瞳だ。今日はその瞳に怒りが込められている。
「あの……」
「なんだ」
「いえ……なんでもありません」
膝に乗せた拳には血管が浮かんでいる。相当お怒りだ。
声色もどこか冷たいような気がする。
でも、私を抱き上げた時の手はやっぱり優しかった。