第10章 涙の向こうに見た青藍の瞳[冨岡義勇]
「では、一ノ瀬さん。約束の五日が過ぎたのでこちらでの療養は終了です」
回診にきてくれたしのぶ様から帰宅の許可が出た。
「ありがとうございます。お世話になりました」
「とは言っても完治したわけではありません。目薬と化膿止めの薬は忘れずに。包帯が取れるにはあと一週間はかかると思います。その頃また来てくださいね。それから、見えない状態での帰宅は大変危険なので隠をつける予定だったのですが…」
「いえいえ! いいのです。私一人のために隠をつけるなんて」
「違うのです。あなたを送って行くと言って聞かない人がいまして」
しのぶさんの声色は困っているようだけれど、少し楽しんでいるようなものだった。
「そうなのですか……?」
「えぇ! もう部屋の外に来ていると思います。では私はこれで失礼します。お大事にしてくださいね」
「本当にありがとうございました」
しのぶ様は肩をポンと叩き出て行った。
帰り支度は簡単なもので、療養着から隊服に着替えるだけ。
なのにボタンひとつ留めるにもひどく時間がかかる。留めたと思ったら違和感を覚え、手探りで確かめる。そんなことの繰り返しだった
日輪刀を帯刀しお世話になった部屋に一礼して戸を開けた。
廊下に出ると、誰が待っているかもわからない状態でただ立ち尽くす私に静かな声が降って来た。
「送って行く」
「水柱!?」
待っている人が水柱だと予想もしなかった。
素っ頓狂な声をあげてしまった口を急いで塞いでいると、彼は「行くぞ」と言って歩き出した。
私の手を取って。
「あの、どうして…?」
「……隠には他の任務があるが、俺は今日ちょうど手が空いている。ただそれだけのことだ」
「一人で帰れます!」
そう主張してみるけど、繋がれたら手を少し引くと思いの外頑固で、しっかりと掴まれたままびくともしなかった。
「どうやって帰るつもりだ。川に落ちてもおかしくないが」
「……お願いします」
結局言われるがまま、水柱に手を引かれて帰ることになった。
案外頑固で言い出したら聞かないところがあることを知った。
それから、彼の手が温かいことも。