第10章 涙の向こうに見た青藍の瞳[冨岡義勇]
ふわりと体が浮き上がり、水柱の香りがすぐそばで強くなった。
恥ずかしくて顔から火が出そうだ。視界が遮られていて良かった。これが見えていたら、もう任務でご一緒なんてできなかったかもしれない。
「あ、あの……自分で歩けますから!!」
「大人しくしていろと言ったはずだ」
ベッドに降ろされた私は、どこにいるかもわからない水柱をじとっと見つめていた。
「なんだその顔は」
「いえ! ありがとうございます」
「不満そうだな」
「不満ではなく……情けなさと、申し訳なさです」
「なぜだ」
「なぜって……柱にこんな失態をお見せした挙句、抱えてもらうなんて」
「気にすることはない」
短くて言い切る声がやけに優しく聞こえた。
「……ところで、屋敷に戻るそうだな」
「はい。庭に植えた野菜も心配でしす…それに何より古いですが両親が残してくれた家です。風を入れてあげないとすぐに朽ちてしまいます」
「その怪我で動けるのか」
「住み慣れた場所なら、体が感覚を覚えていると思うんです」
「そうか」
水柱はそう言ってから『また来る』と言い残して去って行った。
──また来る? また来るって? ……えぇっ!?
扉の閉まる音を聞きながら、水柱の言葉を反芻する。
私の怪我に負い目を感じているのだろう。けれど、これは本当に私の失態の結果なのだから。
ちゃんと説明しよう。あなたのせいではないと。
***
翌日も水柱は宣言通りやって来た。
今度は戸を叩き、「俺だ。入るぞ」と投げかけて私の返事を聞いてから入って来た。
特に何をするわけではない。ただそっとそばにいてくれる。水柱は自分から話すことはないから、私の独り言のような話に「そうか」や「そうだな」と一言添えるだけ。
でも、それがどうしてかとても心地よくて、つい身の上話までしてしまった。
目の怪我もあの日の仔細を話し、水柱のせいではないことをしっかり伝えた。
けれど、その件についてだけは……
あの寡黙な水柱が「俺の責任だ」と譲らなかった。
その翌日も、また次の日も。蝶屋敷での療養中一度も欠かさず部屋に訪れてくれた。