第10章 涙の向こうに見た青藍の瞳[冨岡義勇]
「どうしてそんな事言うの?」
小さな手が、私の手を強く握った。
「どうしてって…本当なら一撃で鬼を倒さなきゃいけなかったのに。あなたたちに怖い思いをさせてしまったから」
「怖かったけど、わたしたちのことをこうやって守ってくれたのはお姉ちゃんだけだよ。ここでは誰も守ってくれなかった。子どもは鬼の大好物だから、わたしたちがいたら鬼がくるって」
「そんな……」
「だからね、お姉ちゃんがわたしたちのことを抱きしめて守ってくれたとき、安心したし大丈夫って思えたんだよ」
「そっか…うん。ありがとう」
──あぁ……情けないなぁ。こんな小さな子の前で泣いて。
小さな手は非力で頼らないけれど、私を鼓舞する強さがあった。
***
蝶屋敷で処置を受けたのち、暫くの間療養するようにとしのぶ様から言い渡された。
目を使ってはいけないとのことで、包帯が巻かれ視界は遮られた。
ただ一日の大半をベッドの上で過ごす。厚く巻かれた包帯で光さえも感じることはできない。
外で鍛錬する隊士たちの声が私を焦らせた。ここで立ち止まっている時間はない。一体でも多くの鬼を斬らなければ。
それにここはもっと重症の隊士たちが必要とするところ。私一人の分でさえベッドを埋めるわけにはいかない。
「あの……しのぶ様」
「何でしょう?」
回診にきてくださったしのぶ様に意を決して問うことにした。
「私は目を傷めただけです。自宅で療養する許可をいただけませんか? ここは隊士たちにとって貴重な療養先です。私のような軽傷者がいつまでも居座るわけにはいきません。
「お気持ちもわかりますけれど、目が見えない状態では、生活が大変ではありませんか?」
「それにつきましては、手探りでなんとか」
「隠を一人つけられるか調整してみましょう」
「お気持ちは有り難いのですが、大丈夫です。なんとか一人でやってみます。やらせてください。あってはならないことですが、また視界を塞がれることがあるかもしれません。その時のための鍛錬にもなります」
もっともらしい事を言ってみたけれど、しのぶ様は半ば呆れたように眉を下げて了承をしてくださった。五日間だけは蝶屋敷で療養するとの条件つきで。