第10章 涙の向こうに見た青藍の瞳[冨岡義勇]
応援を呼んでいる時間もない。この見えない目がどこまで役に立ってくれるかわからないけど、今できることをする。
二人に呼びかけて、声のする方で居場所を探るつもりだった。
けれど、幼い二人は恐怖で言葉を発することができないのか、獲物を前にした鬼の喘ぎ欲する呼吸が聞こえるだけだ。
大丈夫。捕食する音は聞こえない。二人はまだ無事なはず。
自分でも驚くほど冷静に状況判断ができた。
「鬼狩りだなぁ? お前目ぇ見えてねぇだろ」
「うるさい!! だから何? 何があってもこの子たちは絶対守るから!」
「こいつらも気の毒だよなぁ。お前みたいな雑魚が来ちまってよぉ。まぁいい。食料が増えたわけだしなぁ」
鬼が足を踏み出した振動を感じた。でも、動き出してからではとても攻撃が間に合わない。
咄嗟に背後にいるであろう二人に覆い被さるために振り向いた。ほぼ賭けだった。二人の居場所を正確に判断できるわけではないけれど、一か八か──。
振り向いた瞬間、ほんの一瞬視力が回復したのか二人の居場所が見えたような気がした。
大丈夫。間に合う。
腕を伸ばして二人を抱えるように盾になった。
たった二人の家族だ。どちら一人でも欠けたらいけない。これからこの子たちには苦労が待っているかもしれない。けど、生きていたら必ずいいこと楽しいことが待ってるから。どんなつらいことでも二人なら乗り越えていけるから。
「大丈夫よ!」
背中に受ける攻撃を覚悟した時、頸を斬る音が聞こえた。冷静な一刀両断。この音を私は知っている。
「水の呼吸壱ノ型水面斬り」
水柱の静かな声が、鬼の頭部が転げ落ちる音ともに響いた。
チリチリと燃え尽きる音に混じって、刀を鞘に収める鈴のような音が響いた。
闘いの終わりを告げる音に、ひどく安堵した。
「水柱! ありがとうございます!」
「……早く手当てをしてもらえ」
水柱はそれだけ言って行ってしまわれた。
きっと呆れたのだ。私の失態に。
何もできなかった。身を挺して守ることすらままならない。あのときもっと鬼の攻撃を読めていたら……
悔しくて悔しくて涙も出なかった。ただたらたらと流れるのは血のみ。
「ごめんね……あなたたちを守るといいながらこのザマよ。ごめんなさい」