第2章 風 の 憂 鬱 [不死川 実弥]
おはぎなら何でもいいって訳じゃねェ!
そう思ったら
『あぁぁぁ!どいつもこいつも、おはぎ、おはぎうるせぇなァ!俺はなァ、手作りのおはぎが好き、な…ん……だ…ァ…』
つい口をついて出でしまった。
冷静でいられない。
こんな失態は自分らしくない…
悔しいくらいにあいつのおはぎが美味かった。
心を込めて作ってあることがわかったから。
ずるい奴だァ…
調子狂わせやがってよォ。
そんな事を思ってる間に、宇髄が目の前に酒瓶を二本置いた。
『こりゃあな、こっちがどぶろくで、こっちは甘酒だ。お前ら二人はどぶろくな?甘酒ははなちゃんにだ。』
こいつは何を言ってやがる。
不死川は怪訝な顔で酒瓶を見つめている。
―おはぎと抹茶―
この組み合わせが一番に決まっている。
つい顔をしかめてしまう。
『どぶろくだァ?おはぎには抹茶だろうがァ?』
そんな不死川のことは気にもせず、江戸切子のぐい呑みを四つ置いた。
『いいじゃねぇか!たまにはよぉ!柱が三人集まるなんて滅多ねぇ機会だろ?少し早いが、忘年会といこうぜ!せっかくはなちゃんもいるしよ!』
机に置かれたぐい呑みはキラキラと輝いている。
そんな様をはなが見つめていて、漆黒の瞳に反射している。
つい見とれてしまうと、はなと目が合った。
不死川の視線に気づいたはながにこりと笑うものだから、ソワソワとしてしまう。
『ところでよォ、ここに呼んだのは訳があんだろォ?煉獄はお前に用があったみてぇだけどよ。』
目を合わせていられなくて宇髄に話を振り、目の前のおはぎに手を伸ばした。
目の前にありぁ、食っちまうよなァ
不死川はおはぎを食べながら、茶を入れる宇髄に聞いた。
『まぁまぁ、慌てなさんな。これからゆっくり話してやるからよ。』
こいつ茶なんか入れてよ、どぶろくじゃなかったのかよ。
うるせぇし図体ばっかしでけぇと思ってたけどよ、なんだかんだ憎めねェ
『抹茶はたてられねぇからこれで勘弁しろよ。』
そう言って不死川の前にトンと湯呑みを置いた。
湯呑みから立ち上る湯気を見つめれば、向かいに座るはながぼやけて、少し気持ちを落ち着かせてくれるようだった。