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夜空に輝く星一つ。【鬼滅の刃 短編 中編 】

第10章 涙の向こうに見た青藍の瞳[冨岡義勇]



 顔色ひとつ変えずに、まるで水面を斬り込むような滑らさで鬼を討ち取る。
 力むこともなく、驚くほど自然に落ちる頸。
 ひたと静まり返る静寂の中、空気の揺らぎすらない冷静な一振り。

 生々しいはずの一連の動きが、芸術のように見えた。
 それから私は水柱様のことが頭の隅から離れることがなかった。

 何度か共に就いた任務で、何度か言葉を交わすことはあったけれど打ち解けることはなく、少しの距離も縮めることはできなかった。

 任務を終えると、彼は隠に指示を出し、すぐに次の任務へと向かう。
 月明かりに照らされるのは、いつだってその背ばかりで、その瞳の色さえ知ることはなかった。

***

 私と水柱の運命が動き出したのは、満天の星が煌めく夜だった。
 秋も晩秋に近づき、夜風が身にしみる。
 
 この日はひとつの集落に出る鬼を狩る任務だった。集落は広いため、どこから出没するかわからない鬼を等間隔で待機した隊士たちが待ち受けると言うものだった。
 まるでクジのようだ。私の持ち場に現れるかもしれないし、水柱様のところかもしれない。私は集落の人たちを守りながら鬼を斬れるのだろうか。
 家の中ではまた十歳にもなっていない姉と弟が体を寄せ合って震えていた。
 父母を失った子どもたちは、集落の人々からの助けは得られなかった。鬼は子どもや女性を好んで喰うからだ。
 
 ──こんな理不尽あってたまるか。

 絶対に守ると誓い、日輪刀に手をかけ息を潜めた。

 けれど、私は完全に読み違えたのだ。
 まさか鬼が地中から床を突き抜けて家の中に侵入してくるなんて考えもしなかった。

 中から子どもたちの悲鳴が聞こえた。
 戸を破るようにして中に突入すると、今にも二人に襲いかかろうと構える鬼の前に体を滑り込ませ間一髪二人への攻撃を防ぐことができた。
 
 ──けれど……

 目に猛烈な痛みを感じた。視界は血に染まり、ほとんど視えない。
 日輪刀を構えたまま鬼の気配を探るけれど、生憎私は正確に気配を察知できるような高度な技術は持ち合わせていない。
 
 二人の子たちがどこにいるかもわからない状況で、無闇に刀も振るえない。
 手も足も出ない状況に、冷や汗が流れる。

「大丈夫だからね! 私の後ろに隠れてて!」

 
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