第9章 凪の奥の激情[冨岡義勇]
「ご報告が遅れ申し訳ありません。二日前に冨岡様は帰還されていたのですが、危険な状態でした」
それを聞いて生きていてくれた安堵と、そんな極限まで傷つけられたことへの悔しさが胸の奥でせめぎ合った。
「ですが決戦前、私たちにことづけをされたんです。『生きていける状態と判断された時のみ、はなに報せるように。だが最後はハナの元へ還して欲しい』と」
「どうして…」
「これは私の憶測ですが……無惨との闘いとなれば、柱と言えど損傷は激しいものになります。鬼との闘いは体が原型を留めていないことは珍しくありません」
私にもわかる。私の家族もそうだったから。
「冨岡様は、はな様にそんな姿を見せたくなかったのでしょう。私は隠ですので、何度もそのような隊士を見ています。そんなお身体を返されたご家族は、とても正気を保ってはいられません……」
何て言葉を返したらいいのかわからなかった。この方は何人もの悲しみを引き受けてきた。
けれど、隠の方はこう続けた。
「ですが、それももう終わりました。多くの犠牲は出ましたが、皆の悲願が達成されたのです。もう……血を流さなくて済む」
納戸にある二つの羽織についた血も、ようやく報われたのた。