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夜空に輝く星一つ。【鬼滅の刃 短編 中編 】

第9章 凪の奥の激情[冨岡義勇]



「義勇さん、話してくれてありがとうございます。その痛みも後悔も全部、分けてください」

「お前に背負わせたくはない。これは俺の咎だ」

「背負うのではなくて、分け合うんです。さっきも義勇さんが体温を分けてくれたから寒くなかった。だから、痛みも私に分けてください。私は義勇さんが好きだから、一緒に痛むことは当然なんです」

 義勇さんの喉は震え、言葉にならない声が零れた。そして小さく息を吐き、私のこめかみに口づけた。

「見せたいものがある」

 私の手を引いて行き着いたのは、納戸の前。ここは、一度も足を踏み入れたことはない。何となく、開けてはいけない気がしていたから。
 義勇さんは納戸の扉を開け、棚からたとう紙を二つ取り出した。

「あまり見た目の良いものではないが」

 紐を解き、紙を広げると原型を留めていない臙脂色の羽織がそこにはあった。ところどころ色が濃くなっているのは血液だ。
 そしてもう一つ、毘沙門亀甲柄の羽織。これもまたところどころ裂けていて血液が染みていた。

「俺の羽織の元となったものだ。それを使って直せるか」

「こんな大切なもの、私が切ってしまっていいのですか?」

「頼む。はなに任せたい」

 二つの羽織を預かり、端を少し切るために鋏を入れる。震える手の上に義勇さんの手が重なった。

「そんなに力むな」

 羽織に込められていた義勇さんの痛み、悲しみを切り離すかのように、鋏を入れた。これからは、感謝と生きた証に代えていけるように。


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