• テキストサイズ

夜空に輝く星一つ。【鬼滅の刃 短編 中編 】

第9章 凪の奥の激情[冨岡義勇]



 何をしている。風邪をひくぞ」

 針仕事に夢中になるあまり、義勇さんが部屋に入ってきたことに気づかなかった。
 
「すみません。羽織を直したくて」

 そっと私の隣に座ると、肩から落ちた隊服をかけてくれる。大きな隊服は私の体をすっぽりと覆ってしまう。

「寒くないのか?」

「はい! 義勇さんから体温分けてもらいましたから…」

「足りないのなら、まだ分けられるが」

「いい! いいです! また……あとで」

「冗談だ」

「義勇さんの冗談笑えないです」

「お前は裁縫が得意なのだな」

「得意と言うほとではないです。ただ幼いころ貧しかったから、こうして直してぼろぼろになるまで着るしかなかったんです。でも、それが今こうして役に立ってるから嬉しいですけどね」

 日が完全に落ち、行燈の柔らかい明かりが部屋を照らした。枯葉が擦れる音しか聞こえない部屋で、義勇さんは「冷えている」と言って、私を背中から抱きしめてくれる。

「やっぱり……生地が足りないかもしれません」

「生地はある」

「あるのですか!?」

 咄嗟に振り向くと、すぐ近くに義勇さんの顔がある。長いまつ毛を伏せた瞳は、羽織をじっと見ている。

「それは、兄弟子と姉の羽織だった」

 暫くの沈黙ののちに、掠れた声で静かに言った。

「俺は……生き残ってしまった」

 短い言葉の中に、言い尽くせぬ痛みがあった。
 そこから義勇さんは過去にあったことを、手繰り寄せるように一つ一つ話してくれた。

 時折言葉を詰まらせながら、でも淡々と静かに。

 この羽織は二人の命のようなものなんだ。二人の想いを背負い鬼に立ち向かう。きっと、二人が義勇さんの背を押してくれている。

 ──大丈夫、お前ならできる

 そう強く語りかけながら。

/ 204ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp