第9章 凪の奥の激情[冨岡義勇]
「任務に必要なことづけを冨岡んとこの鴉が俺んとこに持ってきやがってよ。お館様から拝受した伝令だから粗末なことはできねぇ。急ぎじゃねぇが今日中には冨岡の耳に入れねぇと」
「わかりました。中でお待ちください。すぐにお茶をお持ちします」
「わりぃね。突然来ちまって」
「いえ! 義勇さんのところへ来て下さる方がいるって嬉しいんです」
「あいつ嫌われてるからな」
「えぇっ!?」
「冗談だよ。あいつは口が足りねぇだけだ。実力は十分あるし義理堅い男でもあるが、なかなか良さが周りに伝わんねぇんだよなぁ。誤解されがちでさ。まぁ、あいつも好かれようって気もねぇみてぇだけど」
「義勇さんは、素敵な仲間がいるのですね」
「あいつ地味だし話は合わねぇけどな」
そう言ってニカッと歯を見せて笑った。屈託のない笑顔に思わずこちらまで笑みが溢れる。
「宇髄さんは、お洒落で粋ですね」
臙脂色の着物に銀鼠色の羽織、宝石のあしらわれている眼帯にさらりと流れる銀髪。街を歩いていても、こんなに目立つ人は見た事がない。
「おうよ。そりゃ最高の褒め言葉だ」
そう言って宇髄さんは、縁側に移動すると庭をくるりと見渡した。
「殺風景な庭だが、冨岡らしいな。余計なもんは排除する。そんな中でもハナちゃんは屋敷に置いてるんだから、そう言うことなんだろうなぁ」
「そう言うこと…とは?」
「いや。何でもねぇよ。まだ冨岡も戻ってこなそうだし、俺に気を使わず好きなことしてくれ」
「じゃあ…お裁縫していてもいいですか?」
「おうおう! ここ座ってやりゃあいい」
そう言って、隣をぽんぽんと叩いてみせる。
「隣ですか…!?」
「ここ風が入って気持ちいいぜ?」
「では、お言葉に甘えて」