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夜空に輝く星一つ。【鬼滅の刃 短編 中編 】

第8章 evergreen[不死川実弥]



 そんな意地はこいつの前では、何の意味もなかった。俺の一番弱く脆いところを見抜いて容赦なく暴くせに優しく包み癒していく。
 多くのものをはなからもらった。だが俺は勝手にこいつの幸せを決めつけ、手前勝手に突き放した。
 もう一度、信じてみるか。はなは何があっても強く生きていくと。

「俺はァ…死ぬ時、おめぇの顔を見たい。……俺のそばにいてくれるかァ?」

 はなの息が詰まる気配がした。小さく震えた体から絞り出された言葉は、

「……はい!」

 この一言だった。
 嗚咽を堪えた声は強い覚悟を宿していた。

「すげぇ顔だァ」

 涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を袖で拭いてやると、はなは恥ずかしそうに俯いた。

「見ないで…ください…!」

「んな今更気にするこたぁねぇだろォ」

「気にします! まだ実弥さんに全部見せたわけじゃ…ないんだから」

 俺はまだこいつを抱いてねぇ。抱いたら最後、もうはなを手放せなくなると思ったからだ。
 
「んじゃあ、見せてもらおうかねェ」

 髪に手を差し込み上を向かせると、はなのまなじりからまた一筋の涙が溢れた。

「泣き虫がァ」

 奪った唇は涙の味がした。

***

 月明かりを頼りに暴いたはなの体は、汚れを知らない未踏の雪のようだった。触れ方を間違えば消えてしまいそうな儚さと、どんな汚れたものさえも白くしまう優しさがある。

「実弥さん…私はあなたのものです。だから思うようにして」

「んな事できるかよォ。おめぇ男の欲を舐めんじゃねェ」

 布団の上で組み敷いたまま、涙を浮かべるはなを傷つけないよう慎重に触れていく。どこに触れても体を小さく跳ねさせるもんだから、俺の理性は限界のところまできていた。

「いいの。たまには加減なしに私にぶつかったくれたっていいじゃない。それとも怖いの?」

「てめ。言ってくれるじゃねぇかァ」

 怖いに決まってんだろうがァ。鬼を何百と斬ってきた手だ。 こんな繊細なもんの触れ方なんざ俺にはわからねェ。

「大丈夫ですから。実弥さんと一緒にいると決めた私がそんなやわなはずないでしょう?」
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