第8章 evergreen[不死川実弥]
はなから守りたいと言われた俺は、酷く動揺した。生まれてこのかた、守られるなんて事は考えたこともなかったからだ。どんなに憎まれようと、罵られようと鬼になった母ちゃんから玄弥を守った。それで良かった。あいつが幸せでいてくれりゃ俺は修羅の道だって行く覚悟だった。
それがどうだ、鬼殺隊になんざ入りやがって。わかっていたんだ。俺を守ろうとしていたことくれぇ。
そんなあいつを突き放すしかできなかったのは、俺にはそんなやり方しかできなかったからだ。
玄弥を失ってから、ずっと後悔していたはずだ。もっと違うやり方があっただろうと。それを今、同じことをはなにしようしてる。
こいつに甘えていいのか。守られるようなぬるい男になっていいのか──。
うまく言葉にできねぇ俺は、想いをそのまま口にするなんてできなかった。突き放し、拒絶する。それしかできなかったんだ。そんなやり方しかできなかった俺を…玄弥もはなも守ろうとしてくれたのか。
俺はもういい加減このクソみてぇな自我を棄てるべきだ。
はなが「細腕」だと言って見せた腕を、掴み引き寄せた。
細ぇなァ…
そうか、俺はこいつにもう守られていたのか。
こいつを抱きしめる時、俺は生きることを許されているような気がしていた。
意地を張るのはやめよう…守られる己のことを許してやろう。
「実弥さん…?」
「本当になァ。こんな細腕で何ができんだって思ってたんだがなァ…」
「守られることは弱さじゃないです。信じて委ねる強さです。私が今も、これから先も強く生きて行けるって信じてください。実弥さんの人生を背負って生きて行けるって。あなたは信じる強さを持っているでしょう?」
俺が信じることに臆病になったのはあの日からだ。貧しいながらも幸せだったあの頃。こんな日が続くと信じて疑わなかった。それがたった一日で崩れ去った。母ちゃんがいてきょうだいたちがいる、当たり前の日常を失った。
それからの人生、俺は失うばかりだった。
いつしか……信じることを辞めた。