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夜空に輝く星一つ。【鬼滅の刃 短編 中編 】

第8章 evergreen[不死川実弥]



 きつく握り返してくる実弥さんの手は、血が通った温もりのある手だ。
 無骨で筋張っていて人様のために使ってきた手は、自分の幸せを掴めるようになる頃には、しっかり握りしめることができないほどボロボロになっていた。

「これからって時に、俺はもう長くはねェ。二十五まであと一年とちょっとだ。そもそも二十五きっかり生きられるとも限らねェ。毎晩目を閉じるのが怖くなる。もうおめぇの顔を見るのはこれで最後じゃねぇかってなァ」

「そんなこと…」

 思っていたなんて知らなかった。ただただ私の行く末を案じて他の人のところへ行けと言っているのだとばかり思っていた。実弥さんは、目の前に迫っている失う恐怖と闘っているのだ。

「先に逝っちまったやつらに会えるのも悪くねぇと思う。けどなァ…それ以上にはなと離れたくねぇんだよ。けどなァ、そりゃ俺の手前勝手な思いだ。はなを縛りつけることになる」

 掠れた声を震わせて、やっと絞り出す本音が私の心に鋭く刺さってくる。こんな弱々しい実弥さんを見るのは初めてだ。
 
「私は実弥さんが先に逝くとわかっていても、あなたのそばにいたいんです。他の人のところにはいきません」

「おめぇのためだって言ってんだろぉがァ!」

 私のため…何度聞いただろう。ならどうして離れたくないって言ったの? ずるいじゃない…そう言いながら離れろなんて。私は実弥さんの心の真ん中にある荒削りの本心が知りたい。

 「おめぇは、俺の言ったことを忠実に守るだろォ! 他の野郎のところには行くなっつったら、それを守り続けるだろォ!? 俺は、誰かの手を借りてでも幸せになってもらいてぇって思ってんだァ! 俺にはどう足掻いたってできねぇ…おめぇといてやれねェ。他の野郎の手垢がつくなんざぁ考えただけで虫酸が走るに決まってんだろぉがァ! でもなぁ、おめぇが…はなにこれから先一人で泣いて過ごすのも…耐えられねぇんだよ…」

 実弥さんは捲し立てるように、けれど最後は弱々しく想いを吐き切った。私はこれが聴きたかったんだ。
 
「俺じゃあ守れねぇんだァ」

「……なら、もう守る側にいるのはやめましょう?」

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