第8章 evergreen[不死川実弥]
実弥さんの寿命は二十五だ。この話を聞いた時、何を言っているのか理解するのに時間を要した。鬼の始祖との闘いで寿命の前借りをしていて、その証である痣が出た者は例外なく、とのことだけれど、実弥さんは違うかもしれない。そう期待しながら実弥さんとの時間を過ごしていた。でもやっぱり例外なんてなくて…最近の実弥さんは以前より疲れやすかったり、眠る時間が長くなったように思う。
まだ一年じゃない、あと一年しかなんだ。それなら少しでも長く一緒にいたい。
「おいおい何言ってやがる。この暑さだ。大人しく涼んでろォ」
「少しでも長く一緒にいたいの」
実弥さんの着流しの袖を縋るような想いで掴んだ。どこにも行かないで欲しい。いやだ、離れるなんて…。
「だからァ、おめぇのためだろうがァ。俺がいなくなった後…おめぇを一人にさせたくねェ」
「私の後のことなんていいんです」
「おい…はな、お前まさか俺のあとを追おうなんて考えてねぇだろうなァ?」
あぁ…久しぶりにこの顔を見たな。額に青筋を立てて、目は血走ってる。鬼を斬って明け方帰ってきてた頃は、いつもこんな顔をしてた。実弥さんは命を粗末にすることに怒っているんだ。でもね、そうじゃないの。
「違う! そんな事は考えてない。実弥さんが命を賭けて守ってきたものだもの」
「そんならおめぇ、早く幸せにしてくれる男のところ行けェ」
「私の幸せは実弥さんと生きることよ?」
「はなは器量も良い。貰い手が必ずいる。女の幸せをここで終わらせるこたぁねぇだろォ」
「なんでそんな事言うの!? 実弥さんは……私が他の男ひとと一緒になってもいいの…?」
あなたはいつもそう。どんなに傷ついても自分のことは二の次で…。でも、一度でいいから言って欲しい。『俺のもんだけでいてくれ』って。
「そりゃ、おめぇ…」
「言ってください!!」
実弥さんは押し黙ってしまった。思っていることはたくさんあるのに、口下手で不器用な実弥さんは、本音を言わずにいつも黙ってしまう。どんなに口が悪くったって、全部言って欲しいのに。