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夜空に輝く星一つ。【鬼滅の刃 短編 中編 】

第8章 evergreen[不死川実弥]



 「……えっ?」

 口に含んだラムネの泡が弾けて消えるように、周りの音が消え、私を取り巻く空気が一気に冷たくなった。
 私を現実に引き戻したのはカランとビー玉の動く音だった。

「何て…?」

「だからァ…はな、おめぇは…」

 実弥さんは言葉に詰まったまま、つづきを紡ぎはしなかった。きっとやっと絞り出した言葉だったんだ。鬼になるのは一度きりのつもりで。

 実弥さんは優しい。世界で一番。
 でもその風貌から、粗暴だとか血も涙もないとか言われることが多い。彼は何を言われても意に返すこともないけれど、私はとても腹が立つ。この人の何を知っているのだと。この傷だらけの荒れた手で、どんなにたくさんの命を守ってきたか。自分が傷つくのを厭(いとわず)に。繊細で優しくて、正義感が強くて、愛情深くて…良いところを挙げたらキリがないくらい素敵な人。そんな実弥さんが好きで好きでたまらない。なのに…。

「……わかってんだろがァ! 長くねぇこと」

「わかってます。わかっていてここにいるんです。あなたのそばに」

 そんな事、わかってる。痛いほど。
 大きな屋敷の中に、実弥さんの物は両手で収まる数しかない。ご飯茶碗に箸、二、三着の着物と草履。それから布団が一組とお気に入りの抹茶椀が一つ。たったこれだけ。
 ──立つ鳥跡を濁さず。自分がいなくなった後のことを案じていることが手に守るようにわかる。それが私には身が裂かれそうなほどつらい。

「おめぇはこれから先の人生…長ぇだろォ」

「そんな…それでも私は──」

「今ならやり直せるだろうがァ! こんな先が知れた男となんざぁ、おめぇは幸せになれやしねェ!」

「やり直すなんて、そんな実弥さんと過ごした時間が間違ってたみたいな言い方しないで!!」

「んなこと言ってねェ! ただ俺は…あぁ! もうこの話は終いだ。隣のばぁさんちの屋根もみてくらァ。穴開いてたら直してくる」

「待って! 私も行きます!」

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