第7章 promise[煉獄杏寿郎]
誕生日…?
時計を見れば針は0時を過ぎている。俺の作り出した願望の世界ならば、今までいた世界とリンクしていてもおかしくはない。この世でも今日は俺の誕生日なのか。
「夢なのかは俺にはわからない。君の反応を見るに…ここは俺が君を置いて逝ってしまったあとの世界なのだな」
「…杏寿郎様はどこから来たのですか?」
「百年も先の世界から来たようだ。君に逢いたくて堪らなかった。その願望が作り出した世界なのだろうか」
はなは混乱しているのか瞳を忙しなく動かし、目を瞬かせている。見慣れない服を着た俺に、未来から来たと言われて当然の反応だろう。
「それでも良いです。杏寿郎様に逢えたなら。触れても良いですか?」
俺が頷くと、はなはそっと手を伸ばした。
触れやすいように近づくと、震える指先が頬にツンと触れた。
「どうだ? 君の覚えている感触か?」
「温かい…柔らかい…」
途端にぽろぽろと溢れだす涙。はなが最後に触れた俺は、冷たく硬くただ静かに寝ているだけの俺だったのだろう。
指先だけで触れていたはなは、俺の体温を溢さないように隙間なく頬を包んだ。
「君を一人にしてしまったな。すまない」
「私は今は一人じゃないです」
「えっ…?」
俺の亡き後、君には愛する者ができたのだろうか…。
「杏寿郎様、覚えていますか? あの日のこと」
無限列車の任務に着くと言った日か。忘れもしないはなの腕を離してしまった日。
「俺は今も後悔している。君の腕をほどいてしまったことも、君の話を聞かなかったことも。あの日君は俺に何を言おうとしたのだ?」
はなは少し開いた襖に目を向けた。その先にあるのは、かつて俺たちが布団を並べて寝ていた部屋だ。そこに答えがあるのだろうか。
はなは俺の手を引いて隣の部屋へ向かった。
「しーっですよ?」
口に人差し指を当てて、ニッコリ笑った。
「わかった!」
はなが襖に手をかけると、俺の胸はうるさいくらい高鳴る。
百年待ち侘びた答えが目の前にあるのだ。
襖が開き、薄暗い部屋に光の筋が差し込む。
光を得た部屋の中に一組の布団が敷かれているのが見えた。
「中へどうぞ」