第7章 promise[煉獄杏寿郎]
小さな行燈に灯された光が柔らかい光を放っているものの、その光は頼りなく目が慣れないと良く見えない。
静かに布団に近づくと、俺は思わず息を飲んだ。
「赤子…」
布団の中で両手を上げて眠る赤子は、明らかに煉獄の血を引いているとわかる髪をしていた。毛先は赤く、炎の揺らぎのような毛質。俺はその場に座り込んでしまった。
「杏寿郎様と私の子です」
「俺とはなの子…」
「あの日の数日前から、月のものの遅れと体の不調に気付きました。直感で、子を宿したのだとわかりました。それに、思い当たる節もありましたし…」
うむ…。はなに精を注いでいたことは確かだ。
「なぜあの日教えてくれなかったのだ?」
「杏寿郎様が任務から戻られる前にお医者様のところへ行って診断をつけてもらおうと思ったのです。ぬか喜びに終わってしまっては申し訳ないと思って。それに…約束があれば杏寿郎様は必ず帰ってきてくださるから」
だが俺は、約束を果たせなかった。
鬼の腕が鳩尾を貫き、腹には穴が開いた。陽光が差し、鬼の腕が塵なり消えゆくと、俺の腹からはとめどなく血が流れた。
薄れゆく意識の中で思うことは、愛する者たちのことだ。
父は必ず立ち直ると信じていたし、千寿郎も己の足で立つことができると確信があった。
たった一つ、はなのことだけは心残りとして残った。
「すまなかった。俺を信じて待っていたくれたのに、君を…置いて逝くなど俺はなんと情けない男だろうか」
「そんな事言わないでください。杏寿郎様は多くの命を守り抜きました。杏寿郎様の誇りは、私の誇りでもあります。だから…情けないなんて言わないでください」
隣に座っていたはなが乗り出して俺に詰め寄った。
「ふぇっ」
はなの声に驚いたのか、寝ていた赤子が顔を顰めて泣き声を上げた。
「ごめんなさい、驚かせてしまいましたね。…三月経って、最近やっと夜まとめて寝るようになってくれたんです」