第7章 promise[煉獄杏寿郎]
甘く優しい温かみのある香りは次第に強くなり、懐かしく俺を包む。
香りに誘われるように瞼を開ければ、見慣れた天井ではなくはなの寝顔が目の前にあった。
俺は夢を見ているのだろうか。
はなは机に突っ伏して小さく寝息を立てて眠っている。俺が任務から帰ると、時折こうして机で眠ってしまっていた。
俺の帰りを待つ間、睡魔に負けてしまったはなが愛おしく堪らなかった。懐かしい感情が溢れ出して思わず頬に触れてしまった。
「んっ…」
伸ばした手には、部屋着にしている黒のスウェットの袖がかかっている。しかしはなは着物姿だ。やはり夢なのだろうか。だが頬の感触も体温も確かに指先に感じている。
「はな……」
睫毛が涙で濡れた跡がある。夢でも構わない。はなを抱きしめてやれるなら、涙を拭ってやれるなら夢だって黄泉の国だって構わない。
濡れた目元に触れると、閉じていた瞼がゆっくり開いた。
微睡みの瞳に俺を映したはなも状況が飲み込めないのか、机に突っ伏したまま暫く俺を見つめていた。
「杏寿郎…様?」
「あぁ。俺だ」
やっと絞り出した声は震えていて、ゆっくり起き上がったはなの瞳からは涙が流れ落ちた。
「本当に杏寿郎様なのですか? これは夢…? ずっと逢いたかったのに、夢にも出てきてくれなくて…今日はお誕生日だから逢いに来てくれたのですか?」