第7章 promise[煉獄杏寿郎]
宇髄と別れて家に着く頃、春雷が遠くで鳴り始めていた。
時計は午後9時を回ったところだ。
テレビをつけてニュースを流す。拙いながらも何とかできるようになった自炊をしながらニュースに耳を傾けると、天気予報のコーナーだった。
雷雲が近づいている、急な天気の変化に気をつけるようにとのことだ。確かに遠くで鳴っていた雷の音が少し大きくなったように思う。
雨が降る前に帰れたことに安堵しつつ冷蔵庫を覗いた。
スーパーにより損ねたが、食材は何とかなりそうだ。
今日は肉豆腐にしよう。と言っても、味付けは市販のタレを使うわけで、誰でも決まった味に仕上がるものだ。
食事の時間になるといつもはなの味付けが恋しくなる。魚の焼き方も味噌汁の出汁も、ご飯の炊き方だって、はなの味を忘れたことなど一度たりともない。
「はな…逢いたい」
ふっと吐いたため息が、甘辛い香りの湯気に溶けて消えた。
***
一人でする食事は味気ない。はなといたころは必ず食事を共にしてくれていた。それがどんなに贅沢な時間だったか、今になって思い知らされている。
食事が腹を満たすだけのものになってしまったのは、いつからだろうか。量は人一倍食べることは自覚しているが、いつのまにか『美味い』と口にしなくなっていた。
はなのいない人生がこんなにも味気なく淋しいものなのだと骨身に染みて、心が軋むように痛い。
こんな日は早く寝よう。雷もかなり近くまできているし、雨も降り出して窓に強く打ち付けている。
風呂で体を温めてベットに入る頃には0時を回ろうとしていた。
目を瞑ったその時、バリバリと地を裂くような轟音と光が辺りを包んだ。まるで頭上に雷が落ちたかのような衝撃に暫く目を開けられずにいると、懐かしい香りが鼻をくすぐった。