第6章 咲 き 香 る[煉獄杏寿郎]
「父上、少しふくよかになられましたか?」
夕餉の時間、久方ぶりに見た父上の顔の線がいくらか丸みを帯びたように感じた。
酒を断ち、口に含む物が美味く感じるようになったのだろう。
健康的な顔色と丸みを帯びた頬を見て安堵していると、
「誰のせいだと思っている」
鋭い視線を向けられ、思わず箸で掴んでいた鰆を白飯の上に落としそうになった。
「あっ…えっと、あの…私のせいなのです」
目の前ではなが茶碗を置き、申し訳なさそうに体を小さくして頭を下げていた。つむじが見える程、頭を下げてもじもじと申し訳なさそうにするハナに、俺は何がまずい事を言ったかと頭の中を一巡した。
「杏寿郎! お前は今それを言うか! はな、お前は気にするな」
緩んだ口元は再び引き結ばれ、俺を鋭く見据えた。
背筋が伸びるような視線を向けられ、背筋を冷や汗が辿っていく。
考えは頭を一巡するのみで、答えは導き出せなかった。
そんな俺に助け舟を出すのは、やはり出来た弟だ。
「あの…兄上、はなさんは毎日兄上の為にご馳走を用意して待っていました。ですが…兄上は戻られなかったので父上がはなさんが作って下さった夕餉を残すことなく食べていたのです」
千寿郎は下がり気味の眉を更に下げ、はなの背中に手を置いた。
俺の食べる量は常軌を逸していることは自負している。それでも、俺の腹が満ちるようにと手の込んだ食事を必ず用意してくれる。
だがしかし、あの量を父上が…。顎の線が丸くなるのも納得だった。
「はなさん、毎日美味しいお食事ありがとうございます。今日は兄上が一緒で嬉しいですね。気を落とさないで下さい。父上も美味しいから食べていたのですよ? 無理をしていた訳ではありません。そうですよね? 父上っ! ねっ?」
「当たり前だ。お前の作る物はどれも美味い」
「すまない!! 俺の為であったのだな」
そう言えば、厨ではなが父上に迷惑をかけてしまったと洩らしていたな。この事だったか…。
俺としたことが、はなに逢えた喜びですっかり腑抜けになっていた。