第6章 咲 き 香 る[煉獄杏寿郎]
まともに治療なんて受けられやしないしな、と小さく呟いて俺のがっちり巻かれた包帯を解いていく宇髄の手つきは、やはり手慣れたもので器用だなと言うと、まぁなと笑って見せた。
「あくまでも応急処置だかんな。はなちゃんとの約束果たしたら胡蝶のとこ行けよ」
「うむ」
「まず薬塗るけどよ、すっげぇしみるかんな。食いしばれよ」
「わかった!!」
傷口が露わになると、丁寧に傷口に塗り込んでいってくれるのだが、これがかなりしみる。
「…っ! すごいな!! しみるな!!」
「良く効く薬はしみるんですー」
「そして臭いな!」
「うるせーうるせー。臭いは飛んじまうから安心しな。相当近くなけりゃわかんねぇだろうよ。相当近くなきゃな!」
はなを抱けば気づかれると言うことか…
押し黙る俺とは裏腹に、何やら楽しそうに鼻歌を歌いながら薬を塗り込む宇髄はやけに機嫌が良いように見える。
「楽しいのか?」
「楽しいっつうか、嬉しい? 煉獄がちゃんと帰ろうとしてるからさ」
「それの何が嬉しいのだ?」
「なんつぅか…お前ってさ危ういんだよ。桜みてぇに散っちまいそうでさ」
「俺は散らない! はなが待っているからな!」
「それでいいのよ。ほれ、縫うぞ。じっとしてろよ」
薬には鎮痛作用もあると宇髄は言った。その言葉通り、縫う間はほとんど痛みを感じず、ジンジンと疼いていた傷の痛みも引いていた。大袈裟だった包帯も綿紗に代わった。
「君は凄いな! 痛みも引いたぞ!」
「そりゃ良かった。が、しかし! またやりすぎんじゃねぇぞ。傷も開くし、はなちゃんにまじでふられんぞ」
親指を立て、人差し指と中指を揃えてこちらに向ける宇髄は、半ば呆れた顔で腰を屈めて俺を見ていた。
「善処する!」