第6章 咲 き 香 る[煉獄杏寿郎]
結局その日ははなはぐったりと体を動かせないまま眠りについてしまった。
明くる朝も体のあちこちが痛いと、じとっとした目で俺を見て家の仕事に取り掛かってしまったのだ。
「天下の炎柱様が好いてる女の前じゃ、ただの性欲おばけか」
「返す言葉もないな」
「俺たちは並の体力じゃねぇ。お前が満足するまでってなりゃ、はなちゃんもたねぇだろうよ」
「はなに言われてしまった。『情を交わすばかりではなく、外へ出て楽しみたい』とな」
あの時のはなの声色が耳に張り付いて離れない。
逢瀬を楽しむ恋人たちを見ては、羨望の眼差しを向けていたのではないだろうか。
「そりゃそうだろな。つぅか今回長期の任務だったんだろ? なのに仲直りしねぇままなんて珍しくねぇか? はなちゃんは後味悪いまま送り出すなんてことしねぇだろ」
「うむ。今回俺は長期の任務に出ると事前に伝えていなかった。文だけ残して出てきてしまった」
「はぁっ!? なんで? はなちゃんが怒ってるからか?」
「いや…怒っているくらいならまだ可愛いものだ。はなは、隠しきれないほどつらそうな顔をする。はな自身は隠しているつもりなのだ。でもな、今にも泣きそうな顔を見ると、な。それもあり謝る機会を逃してしまった」
「お前さんがはなちゃんの涙に弱いってわけか。だからその体じゃ帰れねぇと」
「まぁそうだ。文一つで伝えてしまった挙句、怪我を負って帰ればはなは小言の一つも言ってくれないであろう? 花見もまた来年で良いと言いかねない」
「そりゃそうだろな。甲斐甲斐しく世話して怒ってたことなんて忘れて、つきっきりで煉獄を甘やかすだろうよ」
宇髄の言う通り、はなが涙を堪えながら傷の手当てをする姿が目に浮かんで胸が痛んだ。
「だからな…蝶屋敷へ行ってせめてこの大袈裟な包帯だけでも何とかしてもらえぬものかと思ってたのだが。宇髄! 君は良い薬を持ってきてくれたと言ったな! それを塗れば包帯せずに帰れるだろうか」
「傷見てみねぇと何とも言えねぇけど…。縫ってみるか?」
「ほう。君は縫えるのか?」
「まぁ、忍ってのは傷くらい縫えねぇと仕事にならんのよ」