第6章 咲 き 香 る[煉獄杏寿郎]
「ほら、お前さんは帰んな。上官からの命令だ」
この男、青年が目に入っていなかったのではないかと思うほど脇目も振らずに入ってきたにもかかわらず、横目でちらっと彼を見て、ぽいっと追い出してしまった。
「ではまたな! 青年!」
青年が一言も発さない状況を見るあたり、宇髄の圧にやられたのだろうと察しはつく。
何せこの体躯と整い過ぎた容貌は威圧感がある。
「で、誰が辛抱強いって?」
「聞こえていたのか。はなだ」
「ふ〜ん。お前な、まじで見限られても文句言えねぇからな」
「それは困るな! そうなったら根気強く想いを伝えるがな」
「相変わらず執念深くて暑苦しいな。惚れ込みすぎだろ。ところであの芝居はどうだった?」
ギクッと後が鳴りそうなほど体が反応した。
あの芝居とは、宇髄が二人で行ってこいと券をくれたもの。俺がはなを怒らせてしまう原因となったものだ。
「評判良い芝居みたいだし、さぞ楽しめたんだろうな?」
「いや…その、まぁあれだ」
「…見てねぇだろ」
宇髄の視線が痛い。じとっと呆れたように赤い瞳を細めて睨む姿に俺は観念するしかなかった。
「すまない。せっかく君がくれたと言うのに」
「急な任務か? 確か非番だからはなちゃんを連れて行けるって喜んでたよなぁ?」
この男は聡い。全てわかっているのだろう。試すように、尋問するように間合いを詰めて訊いてくる宇髄と目を合わせることができず、畳の目をじっと見つめるしかできなかった。
「いや…任務ではなくてだな…」
「芝居を楽しみにしていたはなちゃんを離してやらなかった。やめろと泣いて懇願されても抱き潰して一日を終えてしまった。こんな感じだろ?」
「まだ何も言っていない!!」
「なら違うのか?」
「違…くはないな」
「ぷはっ! 声小せっ!!」
「笑うな!」
「想像つくわ」
「想像しないでもらえるか! 想像でもはなのあられもない姿を見られるのは耐え難い!」
「へいへい」