第6章 咲 き 香 る[煉獄杏寿郎]
桜に触れながら顔を緩ませた俺に隊士はにこりと笑った。
「変わった…とは?」
「何と言いますか…雰囲気が柔らかくなった気がします。こんなこと失礼でしたね! でも、とても良い顔をされていて。桜より美しい花のおかげでしょうか?」
「俺が良い方に変わったのであればそれは間違いなく、その花のおかげだ。感謝せねばならんな」
「安心しました」
「安心とは?」
「柱の方達は、命や人生、楽しむ時間さえも犠牲にしているように見えます。ですが…炎柱の顔を見て、心から安心しました。炎柱も人間らしいところがあるのだと。…あっ! すみません、偉そうに…」
「ははは! そうか! 人間らしいか! うむ。そうだな。人間らしさを失ってしまっては、自分の命を守ることはできまい。ましてや人を守るなどな。また来年もこの桜を見たい。大切なヒトに見せたい。そのために何が何でも生き抜く。そのように泥臭く生にしがみついても良いのではないか? 綺麗事ばかりでは、血生臭いこの世界では通用せんだろう」
恐縮するように何度も頭を下げる青年の肩を軽く叩けば、驚いたような顔で俺を見る。
「意外でした…炎柱からそのような事を聞くとは」
「俺も、人の子だ。何としても生き抜いて逢いたいヒトがいる。それだけだ。君にはいないのか?」
「います。花見をする約束をしています」
「そうか。俺は君と、君の愛しい人二人分の命を守らねばならんな。さぁ、行こう。帰るべき場所へ早く帰れるようにもうひと頑張りだな!」
「はい!!」
そんな会話をしたのが月が真上にある頃。そして明けの明星が輝く今、藤の花の家紋の家で俺は肩に包帯を巻かれている。
「炎柱…すみません。俺がしくじったばかりに」
「構わん! 君も、あの女性も無事なら何よりだ! 花見には間に合うであろう? もう行きなさい」
俺の肩に包帯を巻きながら、涙を浮かべて何度も謝る青年から包帯を引き受けた。
ふるふるとかぶりを振る青年は、己のせいだと顔を青くしながら空からになった手のひらを握りしめた。
「でも…」
「君のせいではない。それに言ったであろう? 俺には君と君の愛しい人二人分の命を守ると。それが柱の役目だ」