第4章 遭遇
「……」
その沈黙にさくらは不安になった。
「あの、やっぱり…」「俺は」
話を変えようとしたさくらの声を、爆豪の静かな低い声がかき消した。
「俺は、オールマイトみたいになりたかったんだ」
「オールマイト…」
その名は何年か前に衝撃的な引退を果たしたヒーローの名だった。
史上最も有名で最も強かったヒーローの。
「…ま、後継に選ばれたんは、俺じゃないけどな…」
スタスタと歩きながら爆豪が話す。
「後継…」
そんな話あっただろうか。
少なくともニュースなどでは聞いたことがない。
きっと内部の人達にしか分からないことがあるのだろう。
隣の爆豪をチラリと窺うと、いつもの仏頂面だ。
普通の顔で、普通のトーンで話してる。
けれど、そのサングラスの奥がどこを見ているのか気になった。
「…なれますよ」
目の前のアスファルトに夕日が差す。
いつの間にかこんな時間になっていた。
「…テキトーなこと言ってんな」
いつもよりも穏やかに爆豪が言う。
その声色に胸が騒ぐ。
さくらは語気を強めた。
「だって、私のこと守ってくれるんでしょう?ナンバーワンになるヒーローだから安心していいって言ったじゃないですか」
「…」
驚いた表情でこちらを向く爆豪に笑いかける。
「だからこれからは『なりたかった』じゃなくて『なりたい』です。いや、やっぱり『ぜったいなる』ですかね」
「…」
「約束、守ってくださいね。嘘つきはヴィランの始まりって言うんですよ?」
「ハッ」
爆豪の白い歯が見えた。
「言うじゃねェの!」
その声色にホッとする。
「だって守ってもらえなかったら、私が困るんですもん」
「…分かったって」
追い討ちをかけるようにおどけると怒ったように爆豪が立ち止まった。
慌てて立ち止まり振り変えると、落ちかけた夕日を背にその大きな手がサングラスを外す。
「なるぜ。オールマイトみたいにぜったいになってやる」
「…」
改めて思う。
「だから安心してろ、ミノムシが」
この人はヒーローなんだと。
「…っ。だから私はミノムシなんかじゃ…」
ドォン!!!!
「!!!」
爆豪に駆け寄ろうとしたさくらの後ろで、突然爆発音が鳴り響いた。