第4章 遭遇
アイツと言われて、さくらがイメージするのはただ1人だ。
「それは、つまりあの黒いヴィランが一般の人達に何かをしている、ということですか?」
「恐らくな」
静かに爆豪が頷く。
「……」
『僕を助けてくれるかい?』
さくらの脳裏にアイツの言葉が浮かぶ。
あのまま爆豪が駆けつけなければ、まさか自分も同じように利用されたのだろうか。
「ただしまだ確定じゃねぇ。カメラに映ったヤツがあの黒いヴィランだっていう確証がねェんだ。それで協会はお前にそれを確かめてほしいとかなんとか考えてやがる」
「え…」
それは、その映像を、あのヴィランかもしれないものをもう一度見るということだろうか。
さくらの鼓動が一際大きく鳴った。
手が震えた。
怖い…怖い。
だけど
さくらが口を開こうとしたその時サッと手を温かいもので包まれた。
我に返って自分の手を見ると、爆豪の大きな手に包まれている。
見上げると、サングラス越しにも分かる笑顔。
「心配すんな、そんなこと俺がさせねぇ。そんなことしなくても俺達で調べてケリつける」
俺達というのは、お茶子達のことだろう。
さくらはツンと喉奥が熱くなるのを感じた。
「いずれナンバーワンになる俺が言ってんだ。だからテメェは安心して寝てろ」
「…その言い方だと私がいつも寝てるみたい」
「ハッ!よく寝てんだろ、ミノムシみたいに」
「ひどい…」
正直、それでいいのかさくらには分からなかった。
けれど爆豪が安心しろと笑う。今はそんな彼の言う通りにしようと思った。
「…そういえば勝己くんはどうしてナンバーワンになりたいんです…なりたいの?」
ふとそんなことが気になった。
『ナンバーワン』…そう聞いて思い出すのは、初めて爆豪に助けられた後、ヒーロー協会で爆豪に言われた言葉だ。
『俺はヒーローだ。近い将来、ナンバーワンになるヒーローだ。ちゃんと助けを求めてきた奴らのことは絶対に、何があっても、どんな奴が相手だろうと、必ず守ってやる!!』
虚勢じみたセリフだった。
それでもあの時、爆豪の表情に強い覚悟を感じたから、さくらは本当のことを伝えたのだ。
隣を歩く爆豪の顔が急に真顔になる。
「……」
聞いちゃいけないことだった…?