第1章 the very first day
数日後。
「清野、505号室の鈴木さんのところ、コール鳴ってるんだけど見に行ってくれる?」
「はい!すぐに行ってきます!」
「よろしく!まぁたぶんまた、話し相手になってほしいとかだと思うから。終わったら上がっていいからね!」
「はい!ありがとうございます!」
その日はとても平和な日だった。
急患もなく、久しぶりに定時で帰れそうだった。
「帰ったら久しぶりにあのカフェに行っちゃう?あ!ショッピングもいいなー」
ウキウキと軽い足取りで階段を登る。あと一つ階段を上がれば5階だ。
その時。
ぐらり。
足元が大きく揺れて、さくらは思わず膝をついた。
「え?何?地震?」
そう呟いたのと同時に、
ドオォン!!!
「え、、、、?」
病院の建物がさくらの目の前で真っ二つに割れた。
「、、、何?」
そしてフワリと自分の身体が浮かび上がり、ゆっくりと建物が倒れていく。
それは本当にゆっくりで、全部ハッキリと見えている。
それなのに身体は動かない。
目の前には大きな真っ黒な影。
あれは、、、何?
ヴィラン、、、なの??
これはアイツがやった、、、?
その影がこちらに振り向き、ゆっくりと近づいてくる。
いや、来ないで。
影がニヤリと笑う。
逃げなきゃ。
そう思うのに、身体は宙を舞ったまま凍ってしまったかのように、動かない。
何で?
どうして、、、
真っ黒なその手に首を掴まれそうになって、涙が溢れたその時。
カッ!!
ボォォン!!
眩しい光と爆発音がして目を開けると、固く太い腕の中にいた。
「、、、!!」
見上げるとそこには金髪の男の人がいて、
「、、、無事か?」
さくらを安全な場所に下ろしながら、ぶっきらぼうな声で彼が言う。
「、、、はい」
この辺りに立ち込める甘い匂いのせいだろうか。
頭がボーッとして、さくらにはただ
そう呟くだけで精一杯だった。
黒い影と対峙する、月に照らされた大きな背中が、やたらと輝いて見えた。