第2章 新しい生活
「チィッ」
廊下を曲がる時間さえも惜しい。
「何であん時ちゃんと見なかったんだよ、チクショウ!!」
昨晩、違和感に気が付いたにも関わらず、さくらの手を離した自分に腹が立つ。
自覚があった。あの時、冷静な判断ができていないような、そんな自覚が。
だからこそ腹が立って仕方がない。
あの時、転んだ拍子に自分の上に乗った彼女の身体が想像よりもずっと柔らかくて。
肌に触れた長い髪の毛がくすぐったくて。
見上げる形になった月に照らされた彼女の赤くなった顔を、思わず可愛いと思ってしまって。
ミノムシと笑ったその姿でさえも愛しいと感じてしまって。
一瞬、固まってしまった自分に気がついていたから。
「護衛対象だろーが、アイツは!!」
一瞬でも、このまま抱きしめてしまったらと考えた自分に腹が立った。
「んなこと考えてて守れるわけねぇだろーが!クソが!!」
キュッ!!ガンッッ!!!
「ハァ、、、」
救護室の前で立ち止まり、その扉を乱暴に開ける。
「オイ、ババァ!!アイツはどうしてる!?」
「おや、そんな開け方をするのは誰かと思ったら。アンタかい」
「無事なんだろーな?」
「そんな睨みつけなくたって大丈夫だよ。ただの過労さ。疲れが出たんだろうよ」
「過労?」
「ま、そりゃこんだけ周りで色んなことが変われば疲れもするさね」
「、、、そうか」
チラリとカーテンで仕切られたベッドを見る。
リカバリーガールが大丈夫だと言ったんだ。ひとまずは安心か。
「怪我をしてるとかでもないし、病気でもないから私の力は使えないし、まだ熱は下がってないけどね。おや、アンタも寝不足かい?クマができてるよ」
「チッ、俺のことはどーでもいいんだよ!」
「ふふ、そうかい?じゃあ、元気なアンタがちょっとついててやってくれるかい?」
「ハァ!?テメ、どっか行くのかよ!」
「あぁ、ちょっとこの後会議があってね」
「ハァン!?ざっけんなよ!」
「あの子ならよく寝てるし、アンタが静かにしてさえいれば大丈夫だよ。あ、たまに額の布巾だけ変えてやってくれよ。それぐらいはできんだろ?」
「ハァア!?おい!ちょっと待てって!こら!」
「シー!!」
「ハッ!んぐ!」
口を押さえた爆豪を見て、リカバリーガールはニコリと笑うと出て行ってしまった。