第1章 the very first day
それに比べて、よく取り上げられるのは、今回のヒーロー達の活躍だ。
「きゃー!また出てるわよ、この人!」
「ホント、イケメンよねーっ」
先輩達がはしゃいで見ているのは、さくらを助けてくれたあのヒーローの映像だ。
目元は黒いマスクで覆われてよくわからないが、たしかに全体的にはイケメンという部類に入るだろう雰囲気と、大きな肩幅と立ち姿。
ヒーロー名は、ダイナマイト。
流れているのは、ダイナマイトがその個性と力で次々と瓦礫を持ち上げて、人々を救助する姿。
まだ若いヒーローで、かつその粗忽な言動から実力はあるものの、支持率が低く、これまではベテランヒーローの影に隠れていた。
しかし、今回の活躍で支持率は鰻登り。一気に知名度を上げたと、コメンテーターが興奮気味に語っている。
「ダイナマイト、、、」
どうしてだろう?
その名前を聞く度に不思議に思う。
「清野はさぁ、見てないの!?」
「へ?何をですか?」
「ダイナマイト!あの現場に居たんでしょ!?」
「話しかけられたりとか!?」
「え、えっと、、、」
居た。
彼は確かにあの場所に、自分の目の前に居た。
自分を軽々と持ち上げて、月が浮かぶ空にふわりと浮いて。
そして言った。
『、、、無事か?』
『、、、はい』
自分はそう答えるのに精一杯で。
言葉を交わしたなんて言えるものなんかじゃないのに。
そういえば、お礼も言えなかった。
「えーと覚えてないです」
さくらは苦笑いして答えた。
「えー、勿体ない」
「いやいや、あんな状況でそんなことにうつつを抜かしてる余裕ないでしょ!ねぇ?」
「あはは、そうですね」
嘘だった。
本当は全部覚えている。
あの場に立ち込める焦げ臭さ、そして何やら甘い香り。
彼の一挙手一投足。掠れ気味の声の響き。
持ち上げられた時の温度。
アイツに立ち向かうその背中。
最後に笑った横顔も、全部。全部。
まるで昨日のことのように。
彼の名前を聞くと勝手に頭が思い出して、息が詰まる。
「トラウマの一種とか、、、?」
「ん?何か言った?」
「いえ!何でも!じゃあ、皆さん、絶対に安静ですよ!」
「はいはーい!わかってますよー」
彼のことは考えないようにした方が体に良いかも?
そう思った。