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東卍ショートストーリー

第3章 特等席


 ゆらゆら揺れる

 心地良い大きな背中


 目覚めると、ケンちんにおんぶされているのに気付いた。
 さっき公園でどら焼きを食べて眠たくなり、そのまま寝てしまっていた。
 当たり前のように運んでくれているケンちんに、嬉しくて心がふわっと軽くなる。

「…ふふっ……」

 しばらくこのままでいたい。
 そう思ったけど、うっかり笑い声が漏れてしまい、ケンちんにすぐに気付かれてしまった。

「おい…何笑ってんだマイキー、お前起きてンだろ?」
「…んん?寝てるよ」

 寝てる奴が寝てるよ、なんて言わないだろうけど。

「起きたんなら自分で歩けよ、重い」
「ひでえケンちん、重いとか言うなよー」

 二、三歩進んだところでケンちんはハッとする。

「…さてはずっと寝たフリしてやがったな?」

 少し前から起きていたことを、はきはきと喋る俺の声のトーンで察したらしい…鋭いなケンちん。

「だって…ケンちんに乗ってたかったんだもん」
「は?」
「ケンちんの背中くっついてると、安心する…」


 あったかくて広くて
 優しくて心地良い

 ここは俺専用の特等席だ

 誰にも渡さない

 誰にも譲らないで…


 ぴったりとひっついていると、子供をなだめるみたいな口調でケンちんが言う。

「…なーに甘えてンだよ、さっさと降りろ」
「えー、やだ」
「はあ?ガキかよ。降ろすぞ」
「絶対やだ!」

 まだこのままでいたいのに。
 俺の気持ちとは裏腹に降ろそうとするケンちんに、ムキになってしがみつく。

「やだじゃねえよ離せっ」
「やだやだ!離さない!」
「いってえよ、暴れんなコラ!」

 手足をばたばた動かして抵抗し、何とか居場所をキープした。ケンちんは一旦降ろすのを諦めたみたい。





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