第5章 一等星
ケロッとした顔でそんなことを言う清瀬さんに、体の力が抜けていく。
蔵原くんの言ったとおりだ。
詐欺まがいなことをするし、割と嘘つきな人だって。
「もーう!清瀬さーん!!」
「どうした?」
「もしあの人が信じなかったらどうするつもりだったんですか!嘘だってバレたら暴力振るいそうな勢いでしたよ!」
「信じそうな奴だったじゃないか。頭が弱そうで」
言葉どおり本当に体の力が抜けてしまい、私はその場にへたり込んだ。
傍らには、投げつけられた状態のままのスマホが転がっている。
「そうだ…!ごめんなさい…スマホ壊されちゃって…」
「ああ、問題ない。今夜は誰からも連絡の予定はないから」
「そういうことじゃ…」
「それより怪我はない?」
清瀬さんはそばに屈み、私の顔を覗いた。
「はい…」
「いや。ここ、血が滲んでる」
清瀬さんが顎の下を指差す。
そう言われると、少しヒリヒリするような。
恐らくキスを迫られた時、藍田さんの爪が食い込んだのだ。
冷静に対処してくれたかのように見えた清瀬さんだったけれど、そこで初めて顔色が変わった。
藍田さんの逃げた方角へ目を向け、立ち上がろうとする。
「待っ、行かないで…!」
思わず腕を掴んでしまう。
ごめんなさい。甘える相手じゃないことはわかってる。
だけど一人は嫌だ…怖い…。
「大丈夫。行かないよ」
包み込まれるような、柔らかな声。
頭や背中を撫でられているわけでもないのに、その優しい瞳に見つめられるだけで安堵する。
怯えてたのが嘘みたいに、心が落ち着きを取り戻していくのがわかる。
やっぱり、どう心を誤魔化してみても無理だ。
清瀬さんが、好き───。
「ありがとうございました。助けてくれて。あの…どうしてここに?」
「風見さんの様子が変だったから。勘違いかもしれないと思ったけど、後を追ってよかった」
夜の公園は誰もいない。
藍田さんと二人きりの時はこの静けさが怖くて堪らなかったのに、今はそんな感情も消え去った。
ベンチに座り、清瀬さんに買ってきてもらったお茶を飲みながら話をする。
「今夜、行くあてはある?」
「友達に連絡したんですけど、繋がらなくて。今日はネカフェに泊まります」
「店まで送るよ。用心した方がいい」