第7章 春爛漫
「あ。そうだ、ハイジ。いいこと教えてやるよ。さつきはお前の顔が好きなんだとさ」
「やだ先輩!あれは冗談じゃないですか!」
以前、ハイジさんの好きなところを教えろと言われ、苦し紛れに顔だと答えたことがあったっけ。
どうして今になってそんなことを暴露するのか。
「顔しか魅力がないということか」
え…?
ハイジさんはハイジさんで、何でちょっと悲しそうなの…?
「え…いや、違くて…。ハイジさん…」
「いいんだ別に。俺が爽やかイケメンだということは自覚してる。顔がいいのも長所のひとつだ」
何故拗ねモードに…?
というか、イケメンだっていう自覚、あったんだ。
そっちにもビックリだ。
ハイジさんはスンとした顔をして視線をあらぬ方へ向ける。
きっと、いつもみたいにからかわれているだけ。
わかってるんだから。ほんとにもう…。
……冗談だよね?冗談じゃなかったら?
私が顔だけでハイジさんを選んだなんて、ほんの少しでも疑ってほしくはない。
ましてや、晴れの日の締めくくりにこんな顔させたままなんて…。
「勘違いしないで。顔が好き、じゃなくて。顔を含めたぜーんぶが好き、なの!」
「「おおぉーっ!!」」」
何故か私たちの周りで歓声が沸き起こる。
「言うねー!!」
「ハイジさん愛されてるぅー!」
「素晴らしいですね」
「クソー!羨ましい!!」
「さつき!ハイジのご両親にも聞こえてるぞー!」
ふと背後を見てみれば、ニコニコ微笑むお義母さんと、渋い顔のまま目を逸らすお義父さん。
満足そうに笑うハイジさんが憎らしい。
……嘘。
好き。
大好き。
「末永くよろしく。奥さん」
桜の花は、今、満開。
包み込まれるような暖かな春陽に、滑らかな風。
春爛漫。
確信していることがある。
この先何年、何十年経っても、ハイジさんの傍らに立つたびに私はこう思うだろう。
あなたの隣は、世界一美しい場所だと。
「こちらこそ。末永くよろしくね、ハイジさん」
【END】