第5章 一等星
そこまでしてもらっていいのだろうか。
宿泊するつもりのネットカフェは、駅前で人通りも多い。
もし誰かに見られて、彼女の耳に入ったら…。
「大丈夫なんですか…?」
「何が?」
「……白河さんです。私と二人でいたなんてこと知られたら、誤解されるんじゃ…」
「……?どうして白河さんが……。ああぁー!そういうことかぁ…!」
清瀬さんらしからぬ脱力した声を響かせたと思ったら、同時に項垂れる。
「もしかして、あの夜同じ店にいた…?」
「……二人で話しているのを聞いちゃいました」
清瀬さんと白河さんに遭遇した居酒屋で、私は彼の告白を耳にしてしまった。
それに思い当たったということは、いよいよ私、きちんと振られてしまう……。
「その会話、最後まで聞かなかったんだな?」
「そんな盗み聞きみたいなこと、できるわけないじゃないですか…」
「そうだな。それが風見さんのいいところだ」
清瀬さんの眼差しは優しくて、穏やか。
加えてその顔が妙に晴れやかに映るのは、どうして…?
「白河さん、夏にうちの選手と結婚するんだよ」
思ってもみなかった清瀬さんの言葉に、情報処理をする回路がバグを起こす。
誰が…?白河さん…が…?
けっこん?結婚…?って、あの結婚!?
「え!?待っ…どういうことですか!?」
「どういうことも何も、言葉そのままの意味だ」
「そんな、だって…、私、白河さんは清瀬さんのことが好きなんだと思ってて…」
「どうしてそんな勘違いを」
「だって清瀬さんと話してる時の白河さん、いつもすごく嬉しそうで幸せそうで…」
「幸せそうに見えたんだとしたら、それは恋人との惚気話だからだ。彼のために料理教室に通い始めたとか、あとはウエディングドレスを試着してきたとかで写真を見せてくれたり」
「そう…だったんだ…。でも、泣いてたのはどうして…」
「最近彼が誰かと隠れて連絡をとってるのに気づいたらしくて、浮気してるんじゃないかと。その相手というのが実は俺だったもんだから、焦ったよ。彼の方から相談されて、式でのサプライズを計画していただけなんだが…」
そこまで事情を聞いて、やっと全部繋がった。
『大丈夫、好きなのは君だけだから。信じて』
あれは清瀬さんの気持ちではなくて、白河さんへの慰めの言葉───。