第5章 一等星
次の日の昼休み、真っ先に郵便局へ向かった。
藍田さんからのプレゼントを一刻も早く手放したかった。
一番気になるのは、どこで住所を知ったのかということ。
会社に住所録が見られるデータなんてあった?
いや、個人情報の管理に厳しい昨今、誰もが触れられる場所にそんなものはないはず。
うちの職場にだってもちろん存在しない。
目にすることができるとしたら、管理職か事務の職員くらいのものだ。
しかし藍田さんはそのどちらでもない。
本当に、気持ち悪い……。
「風見?何か顔色悪くね?」
「うん…大丈夫…」
帰宅時間が近づくにつれ、家に帰るのが怖くなってくる。
昨日はほとんど眠れなかった。
夜中に藍田さんがここに来たらどうしようと、一晩中怯えていた。
いつもなら空気が読めない同期も、私の様子がおかしいことに気づいたくらいだ。
ルリちゃんに相談してみよう。
事情を話せばきっと泊めてくれる。
あとはもう藍田さんの連絡先をブロックする。
この際、仕事がどうのこうのと言ってられない。
人の住所を勝手に調べてプレゼントを送りつけて来る人に対して、礼儀を通す筋合いはない。
業務終了後、着替えを終えた私は職場を出た。
数分前にルリちゃんに入れた電話は、留守電に繋がってしまった。
まだ仕事中なのかもしれない。
どこかで時間を潰そう。
もし彼女の都合が悪かったとしても、今夜家には帰らない。
ネットカフェか、ビジネスホテルに行こう。
一人にならない手段を必死に思案していると、隣の建物からジャージ姿の男性が姿を見せる。
───清瀬さんだ。
グラウンドで話した日以来、初めて仕事以外で顔を合わせる。
「……お疲れ様です」
それだけ口にして目を逸した。
清瀬さんは返事をすることなく、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「風見さん」
すぐそばに、清瀬さんがいる。
顔を上げて、その姿を捉える。
久しぶりに真正面から清瀬さんを見た気がする。
相変わらず、真っ直ぐに視線をぶつけてくる人だ。
謝られるの?
私との一ヶ月はなかったことにしたいって。
「この前…」
「さつきちゃん!」
清瀬さんの声と重なるように名前を呼ばれた。
ビクッと肩が震える。
「…っ、藍田さん……」