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雨のち花笑み【風強・ハイジ】

第5章 一等星



桜の花が落ち始め、ピンク一色だった木々の合間には緑色が差し始めた。
毎年この時期になると、日に日に地面に積み重なっていく花弁に侘しさを覚える。
通勤での行き帰り、唯一癒やされていたお花見の時間はもうすぐ終わりを迎えそうだ。

その日、仕事を終えた私はむくんだ脚を引きずりながら家までの道を歩いた。
今日は絶対に湯船に浸かろう。
忙しいとどうしてもシャワーで済ませてしまう癖がある。
最近疲れているし、ちゃんと体を労ってあげなきゃダメだ。
入浴剤を入れてむくみをマッサージして、久しぶりにパックもしちゃおうか。
ネットで買ったはいいけど三回ほどしか出番のなかったフェイススチーマーも使って…なんて考えていた時、スマホが鳴る。


また……?


[今日は近所のジムで汗かいてきたよー!]


そうですか…。


藍田さんからの連絡は、あれから毎日。
昼食に食べたもの、飼っている猫、お洒落な雑貨屋さん…などなどの画像付きで。
SNSを使ったらどうでしょう?と言いたくなるような俺通信ばかり。

疲れている要因のひとつだ。

会社関係者だからブロックはできないし、それならもうはっきりと伝えてしまおうか。
仕事以外の連絡はしないでほしい、と。
自分に自信があるタイプには、はっきり意思表示しないと付け込まれる。
家に着いたらすぐに返信しようと決意する。



「あ、風見さつきさんですか?」

「はい」

私の部屋の前で、宅配の男性が不在伝票を書いているところに出くわした。

「ちょうどよかった。ここにサインお願いします」

片手に乗せられるくらいの小包。
ネットで買い物をした覚えはない。

お礼を言って、送り主を確認する。


「え…?」


思わず声が漏れた。
そこに記入されていたのは、藍田さんの名前だったのだ。

鼓動が早くなってくる。
急に彼の存在が怖くなり、慌てて部屋の中に入りしっかりと鍵を閉めた。

何これ…?
どうして住所を知ってるの?
開ける?このまま送り返す?
でも万が一にでも仕事に関係するものだったら…?
そんなことはないと百も承知で、恐る恐る封を開けた。


中に入っていたのは、ピアスとメッセージカード。
さつきちゃんに似合いそうだと思ったから、なんて書かれている。


こんなもの、受け取れない。
何より、気味が悪い、あの人……。


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