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雨のち花笑み【風強・ハイジ】

第5章 一等星



真っ直ぐな眼差しで語るその口ぶりは、清瀬さんのことを信じ、尊敬している証だ。

「大好きなんだ、清瀬さんが」

「え?や、好きって言葉はちょっと…。あんな変なハイジさん見ていられないだけで。またミスされても困るし。早く普通の変な人に戻ってほしいというか…」

「蔵原くんの新たな一面が見られて、なんか新鮮」

「俺のことはどうでもいいですから!」

ストイックなアスリートのイメージが強くあっただけに、ギャップを感じる。
今私の目の前にいるのは、"蔵原選手" ではなく、"ハイジさん" をただただ慕う後輩だ。
ムキになる様子が可愛くて、思わずタメ口を使ってしまうくらいには親近感を覚える。

「大体、あんなとこで痴話喧嘩するから俺が気を遣う羽目になったんじゃないですか。聞きたくない会話も聞こえちゃうし…」

「痴話喧嘩なんかじゃなくて!ちょっと行き違いというか、タイミングとか色々…。あの…清瀬さんって女性関係どうなの?ルーズなタイプ?」

「さあ?遊ぶ暇なんてなさそうだとは思いますよ。突然家に行っても大抵仕事してるし。女の人と電話してるような気配もないし。風見さんくらいでしょ、付き合いあるのは」

「…そう」

蔵原くんに聞いたところで、清瀬さんの全てを知っているわけじゃない。
でも、昔から取っ換え引っ換えしてましたー、なんて話をされるよりは落ち込まずに済みそうだ。
情けないことに、どこかでまだ清瀬さんはそんな人じゃないって信じたい自分がいる。

「あ、この前の東体大の記録会、もしかしてハイジさんと行きました?」

「うん」

「そういうことか」

「どういうこと?」

一人納得した様子の蔵原くんと、質問の意図がわからない私。


「暇だし俺も行こうかなって言ったら、ハイジさん、"今日だけは来るな" って」


清瀬さん、蔵原くんにそんなこと…。
あの日のデートを大切にしてくれたのは、やっぱり間違いじゃないの?


「女性関係の心配してるんですか?ハイジさんの気持ちなんて、どう考えても風見さんにしか向いてないじゃないですか」


最後に捨て台詞のような言葉を残し、蔵原くんは颯爽と帰っていく。





でもね、蔵原くん。
蔵原くんの知らない清瀬さんは、きっといる。
だって清瀬さんが私以外の人に好きだと告げていたのは、たったひとつの事実なんだよ。



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