第5章 一等星
「え…?」
信じられない。
どの選手のメニューも、機械のように正確に把握している清瀬さんが…?
「ハイジさんとは学生の頃からの付き合いですけど、今までに一度だってこんなミスしたことなかったんです」
蔵原くんと私との間に、沈黙が流れた。
私のせい?最後に話した日のやり取りが理由で?
だとしても、清瀬さんに悩む権利ある?
白河さんを選んだのは、清瀬さん自身じゃない。
「風見さんとのことが原因としか思えなくて。二人が恋人同士なら風見さんに何とかしてほしかったんですけど」
「そう言われても…」
「付き合ってるわけじゃないなら、どうにもできませんよね。すいませんでした」
蔵原くんは、小さく会釈をしたあとグラウンドの出口へと向かう。
その途中、意を決したかのようにこちらを振り返った。
「ハイジさんは詐欺まがいなことするし割と嘘つきだし、いい人間かと言われたらちょっと返事にためらう人ではあります…けど、風見さんを傷つけるようなことはしないと思います」
「……清瀬さんの味方になりたい気持ちはわかります。でも…」
「わかってます。二人のことは二人の問題だし、俺には関係ありません。だけどもし話せるのなら、そうしてあげてほしいなって」
どちらかと言えば口下手な蔵原くんが、一生懸命清瀬さんをフォローしている姿を見ると、耳を傾けてあげなければならない気がしてくる。
「もし、清瀬さんが私を騙してたとしても?」
「騙されたんですか?」
大して驚きもせず、蔵原くんは質問を返してくる。
騙された…かどうかはわからない。
遊びだったとしたら、酷すぎる。
白河さんに心変わりしたのなら、仕方がない。
その代わり、ちゃんと言葉で言ってほしかった。
知らずに浮かれていた自分が、あまりにも惨めだ。
「さっきも言いましたけど、ハイジさんは割と嘘つきです」
「ダメじゃない」
「まあ、はい。ただ、人を傷つけたり自分を守るための嘘はつきません。箱根の日も、大丈夫だって笑ってたくせに、結局ハイジさんの脚は…」
「……」
「俺たちを安心させるための嘘でした。だから誰も責めなかった。ハイジさんは、俺が一番信頼している人です」