第5章 一等星
清瀬さんはグラウンドで別れた翌日、弁解も言い訳も口にしなかった。
私の前では "清瀬コーチ" の顔しか見せない。
もっとも、私が壁をつくっているからそうせざるを得ないのだろうけれど。
遊びだったのか心変わりなのか、それとも別の意図があったのか、結局真意はわからないまま───。
ある程度の時間を置いて、元いた場所へ戻る。
あまり席を開けすぎても何をしていたのかと詮索されるだけだろうし。
案の定、藍田さんのアプローチとスキンシップは続いた。
後輩の言ったとおり、会社関係者だからあまり強く拒絶できない。
しかもところどころでリハビリの話を絡めてくるから厄介だ。
適当にあしらうことが難しくなる。
幹事の仕事と藍田さんの相手とで、普段の倍以上に疲弊した飲み会だった。
お開きとなったのは、日付を超える少し手前。
「じゃあ、お疲れ様でした」
「あ、さつきちゃん!もう遅いし、家まで送るよ」
藍田さんから逃れるため駅に向かおうとすると、それを阻まれる。
冗談じゃない。
やっと開放されると思ったのに…!
「私の家、駅から近いので大丈夫です」
「でも、」
「途中に交番もあるので!本っ当に大丈夫です。今日はありがとうこざいました。失礼します!」
ペコリと頭を下げ、有無を言わせず足早に駅への道を進む。
よかった…食い下がられたらどうしようかと思った。
本当は交番なんてないけど、あれくらい言わなければ家まで知られてしまいそうだ。
ただ、連絡先を交換したのは唯一の失敗だったかもしれない。
仕方がなかったのだ。
業務上必要なことがあれば連絡したい、なんて言い方をされたら教えられないとも言えず…。
この日は帰宅後、色々な気疲れも重なってすぐに眠りに落ちてしまった。
スマホをチェックできたのは、翌朝になってから。
そこには早速藍田さんからのメッセージが届いていた。
[今日は楽しかった!ありがとう!
今度二人でどっか行かない?]
時間を確認すると、受信したのは0時半。
シャワーを済ませてベッドに倒れ込んだ頃合いだ。
私の中で、あまり関わりたくない人物に認定された藍田さん。
かと言ってスルーするわけにはいかないし…。
昨日のお礼と、仕事を理由にした当たり障りのない文面でデートの誘いをかわす。
もう本当に、恋愛とかどうでもいい───。