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雨のち花笑み【風強・ハイジ】

第4章 桜の頃までそこにいて



泣き過ぎて頭が割れるように痛い。
途切れたと思っても、清瀬さんのことを考えるとまた止めどなく涙が溢れてくる。

明日、清瀬さんと会うのが辛い。
明日どころじゃない。
この先も、毎日毎日顔を合わせなくてはならない。

仕事、休んでしまおうか。
いっそのこと、もうあの職場を辞めてしまおうか。

あんなにやりがいを持って仕事をしていたのに、ショックと悲しさとでその意欲すらなくなりそうだ。


やがてカーテンの隙間が白くなり始め、静まり返った屋外からは雀の鳴き声だけが響いてくる。


デート前、心が踊ってなかなか寝付けなかった夜も、泣きながら自問自答を繰り返した今夜も。
どちらの夜も同じように時間は巡り、朝が来る。


「起きなきゃ…」


まさか本当に仕事を休むわけにはいかない。
昨夜は帰り着いたそのままの格好でベッドに身を伏せた。
メイクを落としてなかろうが、服がシワになろうがそんなことはどうでもよかった。
ただ、出勤するにはそれなりに身なりを整えなければならないため、ノロノロと浴室に向かう。
頭の先から爪先まで泡まみれにして洗い、シャワーで一気にそれを流す。
どれだけ水流を強くしても、全くスッキリなんてしない。

朝食も食べないまま、持て余した時間をただただ時計の秒針を目で追うことに費やし、埋める。
遂には家を出発しなければならない時刻が訪れ、ようやく私は重い腰を上げた。







「おはようございます!さつきさん、昨日大丈夫でした?」

「おはよう。うん、帰って寝たら治ったよ。ごめんね、心配かけて」

「いえ。それならよかった!少し目が腫れてません?」

「えー?やっぱり?飲み過ぎたから浮腫んでるのかなぁ」

一応保冷剤で瞼を冷やしてはみたものの、効果は微妙らしい。

「そう言えばあのあと先輩ってば懲りずにアプリで…」

「おーい、そこ!朝礼始めるぞー!」

「あ、ヤバ!」

所長からの号令がかかったところで、無理矢理気持ちを仕事モードに切り替えた。


今日一日が忙しくなってしまえばいい。
清瀬さんのことを考える隙なんて、1ミリだってないくらいに。










そう願ってはみても、顔を合わせなくてはならない時間はやってきてしまった。



「風見さん。お疲れ様です」



「お疲れ様です。午後のトレーニングのあとですが───」


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