第4章 桜の頃までそこにいて
「ごめん、ちょっと気分悪いから先に帰るね」
「え、大丈夫ですか?じゃあ私たちも…」
「ううん。まだお料理残ってるし、ゆっくりして。ごめんね、ブロック男の相手任せちゃうけど」
「誰がブロック男だ!」
「あははっ、任されました!」
お札をテーブルに置いて、私は逃げるように店を出た。
一刻も早く、ここから立ち去りたかった。
どうして……?
何でこんなことになっちゃったの……?
この前デートした時は、私を見ていてくれたのに。
それとも、それすら全部勘違いだった?
何が嘘で、何が本当なの……?
考えても考えてもわからないことばかりで、目の前が真っ暗。
本命は白河さんで、私は遊びだったのかな。
それとも白河さんと天秤にかけられた挙句、私は選ばれなかったということなのかな。
ああ…また、だ。
また、私は選ばれなかった。
もう女としての自信なんて、まるでない。
毎日通勤に使っているホーム、電車、改札、並木道。
足は勝手に家へと向かう。
その間、清瀬さんと過ごした時間ばかりを思い返していた。
あんなに優しくしてくれたのに。
あんなに笑ってくれたのに。
あんなに、好意を示してくれたように見えたのに。
あんなに信じていたのに……!
部屋に入り玄関の扉を閉めた瞬間、私は膝から崩れ落ちた。
「ぅ…っ、あぁあ…っ…!」
清瀬さんのこと、好きになったのに。
私が遅かった?
ルリちゃんの言うとおり、待っていてくれるなんて思ったのがそもそもの間違いだったのかもしれない。
デートの日に素直に気持ちを伝えていれば、こんなことにはならなかったのだろうか。
今となってはわからない。
確かめたくもない。
清瀬さんの心を知ったところで、二人で歩む道はもうなくなってしまったのだから。