第4章 桜の頃までそこにいて
「それでね、さつきさん。うちの彼氏ってば最近コソコソLINEしてて、問い詰めたらどうやら相手は女友達らしいんですよ!」
「LINEの内容は?」
「恋愛相談みたい…。だけど本当かどうか…」
「クロだな。浮気だろ。仮にその話が本当だとしても、彼女もちの男にわざわざ恋愛相談する時点で地雷女。それに乗る男も同類だ」
「先輩のイジワルー!さつきさんはどう思います!?」
「うーん…。頻繁だったら私も浮気を疑っちゃうかな」
「うっそぉー!やっぱそうなの…?」
「浮気された経験者が言うんだから確定だな」
「経験者で悪かったね」
同期のこの男は、私の婚約破棄直後こそこの手の話題は振ってこなかったが、今ではこのとおりデリカシーのないことを平気で言う。
あの頃の傷も癒えたし───いや、それどころか新しい恋に踏み出すことができた私は、この不躾な同僚のイジリくらい軽く流せるようになった。
半年でとんでもない心境の変化だ。
「今度本院と一緒に新人歓迎会あるだろ?そこにいい男がいるかもしんねーじゃん?彼氏を泳がせつつ新たな出会い探せば?」
「泳がせつつかぁ。上手くできるかなぁ」
うちのリハビリテーション施設は、私が勤めている分院ともう少し規模が大きめの本院があり、毎年新人歓迎会は合同で行っている。
「あ、そうそう。俺幹事頼まれたからさ、風見と二人でやりますって言っといた」
「何で私まで!やだよ!」
「だってお前、酔っ払いの相手上手いじゃん。頼むよ」
「酔っ払いの相手が上手いんじゃなくて、ただセクハラを我慢してるだけなんだけど」
「えー?マジ?スルースキルの達人だと思ってたわ」
「そんなわけないでしょ…」
飲み会の時の様子を何度も見ているはずなのに察することができないあたり、さすがデリカシーがない代表とでもいうか何というか…。
酔っ払いの輪の中から助けてくれた清瀬さんが、尚更素敵な男性に思えてくる。
こんな風に他の人と清瀬さんを比べ始めてしまったら、いよいよハマってる証拠かも。
「やだ、清瀬さんっ。グラスが空じゃないですか!」
そう。清瀬さん今頃何して……
ん?
"清瀬さん" ……?