第4章 桜の頃までそこにいて
デートの日から、五日が経過した。
幸い足首の痛みは数日で治まり、今では問題なく動くことができる。
「風見さん、ちょっと相談したいんですが。このメニューだと負荷をかけ過ぎでしょうか」
「そうですね。あと一週間電気治療を続けてから段階的にメニューを増やしたほうが──」
清瀬さんとは仕事で顔を合わせはするものの、業務上必要な話しかしていない。
もちろん私もその姿勢を崩したりはしない。
ただ、終始コーチモードの清瀬さんを見ていると、つい先日プライベートでデートしたことが夢だったのではないかという気さえしてくる。
かと思えば……
「足首の調子はどう?」
「え?あ…、おかげさまで…」
「良かった。酷くならなくて」
「……ありがとうございます」
今日二人になった途端、内緒話のようにひっそりとこんな風に囁かれた。
オンオフ…というか、裏表の使い方が上手い清瀬さんが、あえて仕事中にこんな顔を見せるなんて。
こちらを覗き込むように小首をかしげた不意打ち過ぎる笑顔は、正直言って毒だ。
思考が停止してしまって、表情も言葉も上手く作れなくなる。
「今度、風見さんがいい日に…」
「清瀬ー、ちょっと来てー!」
「あ、はい。……またな」
何かを口にしかけたところで監督に呼ばれ、清瀬さんは行ってしまった。
今度、風見さんがいい日に───
に続くのは、「時間をつくってほしい」というような言葉だと思う。
清瀬さんからお付き合いを申し込まれた私は、過去の痛手を引きずっていたがために恋愛に臆病になり、それを一度はお断りした。
リハビリと称した一ヶ月のお友達期間は、もうあと数日で終わる。
きっと清瀬さんは、返事を待っている。
私はもう、心を決めた。
次に会った時、この気持ちを真っ直ぐに伝えるだけ。
勤務終了後、今夜は久しぶりに職場の同僚と駅近くの居酒屋を訪れた。
うちのスタッフも清瀬さんが所属するチームもよく使う店で、昔ながらの大衆的な雰囲気だ。
お酒はお手頃で料理も美味しく、仕事帰りにちょっと寄り道して飲んで帰るには丁度いい。
難ありの上司がいない分、今夜はみんな和気あいあいとお酒を楽しんでいる。