第4章 桜の頃までそこにいて
「痛む?」
「いえ、さっきよりは。でも足を着くのがちょっと怖いかも」
「今日はこのまま家に送るよ。途中で何かテイクアウトして帰ろうか。家でゆっくり食べた方がいい」
「…そうですね。お願いします」
残念だな…。
清瀬さんといられる時間が減ってしまった。
仕方がない。こんな足で食事をしたところで、清瀬さんに気を遣わせてしまうだけだ。
「あ、そうだ」
「?」
「図書館での昼飯も、しばらく止めておかないとな」
「……」
しばらく止めにしたとして、その後は?
当初約束したリハビリの期限まで、あと一週間。
清瀬さんは約束の日が近いことにも触れないし、答えが欲しいとも言わない。
職人さんと交わした軽口のようなやりとりは変わらないけれど…。
元彼と遭遇したあの夜から何かが違う気がする。
一緒にいたいと素直に思えたところなのに、私の怪我が重なったことで会えない時間の方が増えてしまうなんて……。
アクシデントのために出発時間は少々遅れたものの、特に渋滞に巻き込まれることもなく地元に帰ってきた。
「足首、数日で治まるといいな」
「何とか歩けるし、長引くことはない気がします」
「今は平気?」
「じっとしていれば大丈夫ですよ。清瀬さんが車出してくれたおかげで、助かりました」
電車での移動だったとしたら、帰り道、足を引きずりながら歩かなければならなかった。
混雑している電車の中で立ちっぱなしというのも辛いものがあったはず。
幸い足を安静に保つことができたし、車移動は本当にありがたかった。
「少しだけ、寄り道して帰ってもいい?」
「はい」
どこへ行くのだろうと外の景色を眺める。
地元とはいえ、私の知らない場所だ。
市街地のような明かりはなく日もすっかり落ちてしまっているため、余計に目的地の見当がつかない。
林…?山…?
とにかく、木々の生い茂る道を砂利の音を響かせながら、車は傾斜面を上っていく。
そうして走ること数十分、視界が開けた瞬間、私の口からは思わず感嘆の声が漏れた。
「わ…、すご…い…!」
目の前に広がるのは、眩しいくらいの夜景だった。