第4章 桜の頃までそこにいて
「向こうに着く頃には夕飯時だな。風見さんが良ければ、何か食べて帰る?」
「はい。実は気になってたお店が…」
歩き始めた清瀬さんの後を追い、足を踏み出した途端、違和感が走った。
「風見さん?どうした?」
付いて来ない私を不思議に思ったのか、清瀬さんが足を止めて振り返る。
「いえ…」
気のせい…?
恐る恐るもう二歩、清瀬さんに近づく。
「…っ!!」
今度は確実に、右足首に鋭い痛みが突き刺さった。
「……」
「もしかして、さっき捻ったのか?」
きっとそうだ。
変な体勢で尻もちを着いた。
その時に、足首を捻ったのかもしれない。
「見せて」
真剣な瞳に促され、そばのベンチに座る。
露出した足首に清瀬さんの指が触れた。
動きを確認するように角度を変えていくと…
「あ…っ」
「やっぱり痛めたんだな。そこのドラッグストア行ってくるから、待ってて」
「大丈夫です。帰ってから湿布貼れば…」
「処置は早い方がいいって、知ってるだろ?」
「……はい」
陸上選手のコーチである清瀬さんは、怪我の応急処置も熟知している。
それはリハビリに従事する私も同様で、否定の余地はない。
数分後、清瀬さんは湿布と包帯で足首を手当てしてくれた。
圧迫気味に固定してくれたおかげか、さっきより脚全体が支えられている感じがする。
「好きなところに掴まっていいよ」
「好きなところ…」
「肩でも腕でも」
駐車場へ向かうには、どうしたって自力で歩かなくてはならない。
どうやら車に辿り着くまで清瀬さんが支えてくれるということらしい。
肩を借りるには身長差があるから……
「じゃあ、失礼します」
お言葉に甘えて手を伸ばす。
「どうぞ」
右手でそっと、腕を掴んだ。
迷惑をかけているのに不謹慎だとわかっていながら、触れた腕の温かさに胸が鳴る。
体に触れていると、抱きしめられた夜を思い出してしまう。
すがるように清瀬さんの背中に腕を回してしまった、自分のことも。
今更ながら、恥ずかしすぎる…。