第4章 桜の頃までそこにいて
「すみません!!お怪我はありませんか!?」
ベビーカーを押しながら駆け寄ってきたお母さんらしき女性が、慌てた様子で頭を下げる。
「ままぁーっ!!ふうしぇーんっ!!」
「ゆうくん!ママと手を繫いでって言ったでしょ!おケガしちゃうとこだったよ!」
ベビーカーでは赤ちゃんがスヤスヤと寝息を立てている。
突然子どもが走り出してしまっても、この赤ちゃんを置いて追いかけるなんてこと咄嗟にはできなかっただろう。
「すみません…風船飛ばしちゃって…」
「いえそんな…!私がちゃんと手を繋いでいれば…。本当にありがとうございました!」
「おケガ…?ここ、おケガある!!わあぁーんっ!!」
お母さんの怪我という言葉に反応して、ゆうくんと呼ばれた男の子はまた泣き声の音量を上げた。
「え!?怪我しちゃった!?どこ!?」
腕を引っ張った時?
それとも、尻もちを着いた時どこか打った?
ゆうくんが指で差した場所を確認する。
「ここー!」
「……」
よく見ると、右膝に小さーいカサブタが…。
「いつのカサブタよ。もう…」
半分呆れながらも、お母さんはゆうくんを安心させるように抱きしめた。
けれども風船がなくなったショックが尾を引いているようで、泣き止む気配はない。
「ゆうくん。これ、なんだ?」
清瀬さんがあるものを取り出し、ゆうくんに見せる。
「あ、ぱまんっ!」
途端にそのつぶらな瞳がキラキラ輝き出す。
清瀬さんが手にしているのは、アン○ンマンの絆創膏だ。
「よく知ってるなぁ。じゃあ、怪我したところに貼ろうか。ちゃんとママと手を繋ぐって、約束できるか?」
「できる!」
「よーし」
清瀬さんは小さなカサブタを隠すように絆創膏を貼った。
「本当にありがとうございました」
「ばいばーいっ!」
清瀬さんとの約束どおり、ゆうくんはお母さんとしっかり手を繋ぎ、親子三人で帰っていった。
「何でアン○ンマンの絆創膏なんて持ってるんですか?」
「うちのコーチが自宅でのバーベキューに招待してくれたことがあったんだ。その時コーチの子どもに何故か気に入られてしまって。その子の宝物の中から一枚くれたんだよ。財布に入れたままにしていて良かった」