第4章 桜の頃までそこにいて
「ご自宅へは一週間くらいで届くと思うから。仕上がりを楽しみに待っててね」
「ありがとうございました」
「すごく楽しかったです!」
「またいつでもおいで。あ、そうそう。うちは引出物も承ってるから。 "その時" が来たら、俺が心を込めてお祝いのグラス作らせてもらうよ!」
引出物……。
そうだ、この職人さんさっきから勘違いしている。
私たちは付き合ってるわけではないのに。
まあでも男女二人でいたら、カップルだと思う人のほうが多いのも仕方がない。
わざわざ細かいことを説明する必要も……
「折角のご厚意なのに残念ですが、僕たち、恋人同士ではないんですよ」
───意外だった。
清瀬さんのことだから、わざわざ否定なんかしないと思ってた。
「何だ、そうなの?」
「はい。ただ、今仰った未来が訪れるように努力するつもりではいます」
「…え!?清瀬さんっ!?」
何の宣言!?
付き合う云々どころか先を行き過ぎてる!
「あっはっはっ!なるほど、そういうことね。君の片想いか。お姉さん、清瀬くんいい男じゃないの。考えてやりな。俺から見たらお似合いの二人だよ」
「いやぁ、照れるな。僕もそう思います」
妙に意気投合している。
数週間前なら困惑するしかなかった清瀬さんのこんなキャラも、今ではもう受け入れてしまう自分がいる。
慣れって怖い、と一瞬考えたけどそうではない。
恐らく、ここに至るまでに私の心境が変化してきているから。
私、清瀬さんにそろそろ言わなくちゃいけないことがあるんじゃないの?
その後は駅前のショッピングビルに立ち寄り、ウインドウショッピングをしたり、休憩を挟んでお茶をしたり。
思いつきで同じ建物の中にある映画館で、映画鑑賞もした。
それは本当に、ただ普通のカップルがするようなデート。
楽しい。すごく、楽しい。
今日が終わっちゃうの、嫌だな……。
日が傾いていくにつれて、私は密かに心の中で、そんなことを思っていた。
「渋滞に嵌ると帰りが遅くなるし、そろそろ行こうか」
「…はい」
二人の時間が終盤に差し掛かっていることが、嫌でもわかる。
咄嗟に返事だけは出来ても、上手く笑えたかどうか自信がない。