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雨のち花笑み【風強・ハイジ】

第1章 One Night…?





「……頭いた…」


頭痛を誤魔化すように、布団を頭から被った。
覚醒しかけた意識の向こうから、出汁のいい香りが漂ってくる。

あれ…、私、実家に帰ってきたんだっけ。
喉カラカラ…。

「おかあさぁん、お水ちょうだーい…」

「はいはい」

冷蔵庫を開ける音がする。
パタパタ近づいてくるスリッパの音も。

「大丈夫?」

「うん…」

ズキズキと響く痛みに耐えながら、体を起こした。

「はい、水」

「ありが…」

お母さんが持ってきてくれたペットボトルを受け取って、それを飲もうとした時。
目の前にいるのが、私の母でないことに気づいた。


「おはよう」


「…っ!?……きっ!?」


う…嘘でしょ…!?
目の前で爽やかに笑っているこの人。
清瀬コーチだよね!?


咄嗟に周りを見渡してみる。
キッチン、テレビ、壁紙、カーテン、テーブル。
それから、ベッド。
私の知る景色は何ひとつない。


「ここは…?」

「俺の家」

「どうして私、ここに…?」

「覚えていないのか」

「……覚えていません」

「そうか…」

そうか…、じゃなくて!!
腕組みしている場合じゃなくて!!

お母さん…ごめんなさい…。
私はふしだらな娘です。
酔いに任せて仕事関係の男性と一夜を…。


「まあとにかく。朝飯でもどう?」


何、この感じ。
昨日までとは雰囲気も口調も違うこの感じ。
一線を超えてしまったが故の、距離が近くなったこの感じ。


「二日酔いにはシジミがいいらしいんだが。生憎うちに買い置きはなくてね。豆腐とワカメの味噌汁だけど、食べられる?」

「あの…清瀬コーチ…お構いなく」

「仕事の席じゃないんだ。"コーチ" なんて呼ばなくていいよ。昨日と同じで」

あぁ…やっぱりクロなのね…?
俺たちの仲じゃないか、みたいなことなのね…?
昨日と同じ呼び方って何だろう…やっぱり下の名前?

「私、何て呼んでましたっけ…?」

「え?普通に "清瀬さん" って」

名前じゃないんかい。
心の中で自分に突っ込んで、促されるまま顔を洗い、席に着いた。


テーブルの上には、既に二人分の朝食が並べられていた。
鮭の切り身に、卵焼き、炊き込みご飯。
お椀によそった湯気の立つお味噌汁を、清瀬コ…清瀬さんが運んでくる。
理想的な朝食だ。
清瀬さんって、料理上手なんだ。


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