第4章 桜の頃までそこにいて
あとは彼からの連絡を待つだけ。
こんな感覚は久しぶりだ。
会えるその瞬間を想像して、胸が高鳴る感覚。
プルルルッ───
ドキンと鼓動が震えた。
着信は、清瀬さんから。
「はい…」
『着いたよ。駐車場にいるから』
「ありがとうございます。すぐに行きます」
自分でも緊張しているのがわかる。
気を抜くと声が上擦ってしまいそうだ。
スマホをバッグにしまって、忘れ物がないかを確認し、部屋を出た。
駐車場には黒いコンパクトカーが停車していて、傍らには清瀬さんが待っている。
その姿を目にした途端、緊張も忘れて思わず声を上げた。
「ジャージじゃない!」
「え?」
「あっ、えっと、おはようございます…」
「おはよう。……この格好じゃ変かな」
「いえいえ!至って普通で…って、え、あ、違うんです!もちろん、いい意味で、ですからね!」
至って普通というのは、例えるならカジュアルな系統の店のマネキンが着ているような服、という意味での "普通" だ。
私は凝ったお洒落をする男性には苦手意識がある。
一緒の時間を過ごすのであれば尚更、同等のお洒落をしなくてはいけないような気がして疲れてしまう。
その点、初めて見た清瀬さんの私服は私の想像の範疇で安心した。
「風見さんも今日は何か感じが違うな」
「……どこが違います?」
「そうだな…、ああ、首周りが寒そうに見えるんだ」
「……」
ルリちゃん、聞いた…?
お洒落したところで、清瀬さんにしてみればやっぱり冷えの心配が第一なんだよ。
嬉しいんだか悲しいんだか、私、ちゃんと清瀬さんのことわかってたみたい。
「……寒くないのでご安心ください。迎えに来てくれてありがとうございます」
褒めてもらえるとは思ってなかったけど、ちょっぴり落ち込む。
「何か気に障ることでも言ったか?」
「いいえ。全然。時間大丈夫ですか?」
「そうだな。行こう」
助手席に乗り込んで、シートベルトを締める。
これから向かう大学は山の方にあるらしく、清瀬さんはレンタカーを借りてきてくれた。