第4章 桜の頃までそこにいて
「きゃあーっ!はっきりデートって言ってくれた!清瀬コーチいい男じゃん!」
私のスマホを覗き込むルリちゃんが声を弾ませた。
「うん…」
知ってる。
もう、わかってる。
清瀬さんはいい男だよ。
私を好きでいてくれることを、不思議に思うくらいに。
返信を待つ間も緊張していたけれど、さっきにも増して胸がドキドキしてきた。
そっか、清瀬さん、デートに誘ってくれたんだ。
「今から買い物行こっ!スポーツ観戦していても浮かない格好で、それでいて女らしさをアピールできるような服…、あ、こういうのは?オフショルダー」
早速スマホでファッションサイトを開いて、ルリちゃんチョイスの服を私に見せてくる。
「肩丸出しじゃ寒い」
「おばあちゃんみたいなこと言わないの!じゃあミニスカート」
「あのね、清瀬さんは私が肌見せしてても何とも思わないよ」
想像できる。
体冷えるぞー、とかそんな程度の反応しかしなさそうだ。
「さつきに気があるんでしょ?何とも思わないわけなくない?」
「張り切って反応されなかったら虚しいもん!清瀬さんの好みと真逆だったら、とか考えちゃう」
清瀬さんってどんな服装が好きなんだろう。
この前岩倉先輩に聞いてみれば良かった。
「何で自信なさげなの?付き合って欲しいって言ってきたのは清瀬コーチでしょ?そんなの勝ち戦じゃん」
「戦なの?」
「恋は戦だよ。気持ちが自分に向いてるうちに、逃さないようにガッツリ捕まえるの!いつまでもさつきを好きでいてくれると思ったら大間違いだからね?」
正論過ぎて返す言葉もない。
「……あの頃のさつきは見てられなかったよ?やっと立ち直れたんじゃない。それって、清瀬コーチがいたからでしょ?」
ルリちゃんは全部知ってる。
結婚がダメになった時のボロボロの私のこと。
家族と同じくらい心配してくれた。
私が落ち込むだけ落ち込んだあとは、何もなかったみたいに普段どおりでいてくれて。
周りからはいつまでも腫れ物扱いだった私にとって、どれほど彼女に救われたか。